現実世界にダンジョンが現れた〜事前準備は万全です〜
@morukaaa37
第1話
俺の人生は至って普通だ。幼少期に特別な背景がある訳でもなければ、青春期にこれといった盛り上がりがあったわけでもない。社会人になってからも特別思い起こすようなことは一つもなかった。
だから、灰色の高校時代を共にした元クラスメイトからマニュアル通りのようなアポイント商法を受けたときは正直驚いたし、それがどっかの漫画にありそうな武器を取り扱っているのだと説明された時には呆れて、そこまで困っているのなら金を払ってやろうという気持ちになってしまっていた。
20代後半にしては自分は稼いでいる方だという優越感もあったので、全てが善意と言うつもりはない。
俺に話を持ちかけてきた旧友は、今喫茶店の角で机に身を乗り出している。
「50万円払わないといけないんだけどな。絶対、損しねーから」
「はいはい、分かったよ」
本当に騙されていると思われるのが癪だったので、相槌は適当に打つ。契約書に書かれた俺の文字。口座に振り込めば終わりらしい。
男はバニラの溶けたメロンソーダを片手に、俺の名が書かれた契約書を満足そうに眺める。
「よし、これでお前もこっち側の人間だな」
「なに、犯罪者ってこと?」
「ちっげーよ!言ったろ?本当に儲け話だって」
「こんな変な装飾のついた武器でどう稼ぐんだよ」
「それはアレだ……時間が経てばわかる」
そう言葉を濁す旧友は、俺の視線から目を外しストローに口をつけている。
誤魔化すような態度に、流石に50万は調子に乗ったかと後悔する。貯金がほとんどなくなってしまった。
「てかお前な、今時メールで"当選しました商品を受け取りに来てください"とか誰も信じないぞ。しかも、メールアドレスそのままだし」
「あー、それはちょっとした冗談な。マジで騙すつもりだったらもう少し頭使うっての」
「お前にそんな脳はない」
「うっぜぇ……だったら詐欺疑うなよ」
俺は男の不満を聞き流し、質問を続ける。
「大体このおもちゃはなんだ?これに50万?どんな付加価値があったらそんな値段になるんだ」
「………そりゃ、アレだ。すげー付加価値がついてんだよ」
「そのすげー付加価値ってのを教えてくれよ」
どうせないんだろ?と目で尋ねると、意外にも真剣な顔でこう言われた。
「何度も言うけどさ、この武器はマジで役に立つから。言っとくけどお前だから特別にあげたんだ。疑われる以前に感謝した欲しいくらいだね」
「……だとしても50万は高すぎだろ」
「そんぐらいの価格じゃないと価値がないんだよ」
俺が金を払うことが商品の価値につながる理由がわからない。目の前の友人がバカなのは昔から知っていたが、ただのバカの戯言にしては違和感を感じる。
バカと天才は紙一重と言うが凡人には理解できないという点では同じなのかもしれない。凡人代表の自分としては、もはや思考を放棄するしかなかった。
「俺はさっきからお前の言っていることが何一つ理解できない」
「まあ、俺も理解してもらえるとは思ってねーな」
「よくそれで俺が50万も払うと思ったな」
「そこは賭け」
「せめて友情とか言えよ」
────これが丁度、1ヶ月前の出来事だった。
現実世界にダンジョンが現れた〜事前準備は万全です〜 @morukaaa37
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