君は僕のぬいぐるみ

華川とうふ

僕の愛しいぬいぐるみ

「ぬいぐるみがほしい」


 初めて母に物をねだったとき、与えられたのは思っているのとは違うぬいぐるみだった。

 たしかにそれはふわふわしていて、可愛らしく、僕のずっとそばにいてくれる存在になったけれど。


 僕の両親はどこかずれている。

 普通の家とは違う。

 いつも良いものを与えてはくれているけれど、それは僕が期待していたものとは大抵別なものである。


 僕の希望だとか状況はお構いなし。

 それが僕の発達状態や気持ちにあっているかなんて考えない。

 両親が良いと思ったものをあてがわれた。


 そのぬいぐるみはひどいものだった。

 可愛くてふわふわでだっこできるクマのぬいぐるみが欲しかったのに。

 その子は抱きかかえるのには大きすぎたし、名前までついていた。


 ぬいぐるみのお誕生日をしっているだろうか。

 ぬいぐるみに名前をつけてリボンを首にまいてあげた日がそのぬいぐるみのお誕生日になるらしい。

 だけれど、僕のところにきたぬいぐるみときたら名前がすでにあるだけじゃなく、リボンを巻くのも嫌がった。

 本当になまいきだ。


 ずっとそばにいてくれる親友ができるはずだったのに、期待はずれもいいところだ。

 僕は憤ってぬいぐるみに言った。


「僕はお前を好きにできるんだ。腕をちぎってわたをだして、明日の朝にはごみ収集車にのせることだってできるんだ」


 そうやって脅すとぬいぐるみは、やっとリボンを首に巻かせてくれた。


 なんだかんだそうやってぬいぐるみとの関係は続いた。

 僕がおちこんでいるときもずっとそばにいてくれた。

 結果的には、僕が望んだ理想のぬいぐるみがそこにはいた。

 学校にも一緒に通った。

 ぬいぐるみとはいつも一緒だった。

 ほとんど家に帰らない両親よりも僕にとっては家族だった。










 だけれど、今日、家に帰ったらぬいぐるみは冷たくなっていた。

 首に巻いたリボンで宙からぶらりとぶら下がっていた。

 僕はまた独りぼっちになってわんわんと泣いた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

君は僕のぬいぐるみ 華川とうふ @hayakawa5

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ