ぐいぬるみ
混沌加速装置
ぐいぬるみ
「さぁ島田くん、入って」
「へぇ、これが
「あんまりジロジロ見ないでよ」
「女子の部屋って初めてだから、つい」
「どこでも好きなとこに座って」
「ありがとう」
「ねぇ、何か飲む?」
「じゃあ、コーラ」
「わかった。持ってくるからゆっくりしてて」
「はい、どうぞ」
「サンキュー」
「まだあるから遠慮しないで言って」
「おう」
「どうしたの? キョロキョロして」
「いや、やっぱ女子の部屋だなぁと思って」
「何それー」
「だってさ、綺麗な小物とか、ぬいぐるみとか、俺の部屋にないものばっかあるしさ」
「女の子はこれが普通だよ」
「ふぅん。にしてもさ、ぬいぐるみの数、多くね?」
「そう?」
「それに、どれも見たことないキャラクターっていうか」
「それはそうだよ。だってどれも世界に一つしかない特別製だもん」
「へぇ。近くで見てもいい?」
「いいよ」
男の子が近寄ってきて、物珍しそうな目を向けてきた。見覚えがある。
「なんかリアルだなぁ。ちょっと触ってみてもいい?」
「どうぞ」
「うわっ、この手触り、本物の髪の毛っぽい」
「だって本物だもん」
「マジで?」
「持ち上げてみてもいいよ」
両の
「重っ!」
「重さも小学生の平均体重を参考に作られてるの」
「中に何入れたらこんなに重くなるんだよ」
いきなり手を放され、壁に頭を打ち付けた。鈍い音が響き、頭蓋が振動する。
「あ、ごめん。すごい音したけど、大丈夫?」
「大丈夫だよ。ただのぬいぐるみだもん」
「てか、これ、服以外の部分って何でできてるわけ?」
「服以外の部分?」
「持ち上げようとした時にさ、なんか、ぶよぶよした感触だったから」
「それはね、表面がエラストマーって素材でできてるからなの。重いのは中にシリコーンが入ってるからなんだって」
「へぇ。じゃあ、ぬいぐるみって言うよりは人形に近いってこと?」
「んー、どうかな?
「ふぅん。向こうのガラス棚に並んでるビンは何? 香水?」
「うん。匂い嗅いでみる?」
駄目だ。嗅いではいけない。
「あ、冷たい」
「常温だと気化しちゃうから冷蔵保存してるの」
「すげぇ。これ、英語が書かれたラベルが貼ってあるけど、外国製?」
「そうだよ」
「キャノゲン……チロリデ? ブランドか何か?」
「嗅いでみて」
「なんだろ? どこかで嗅いだことあるような……」
「杏仁豆腐じゃない?」
「あー、言われてみればそうかも」
「いい香りでしょ?」
「んー……なんか、頭痛くなってきた」
「大丈夫? コーラ飲む?」
それも飲んじゃ駄目だ。
「やっぱコーラ最高だな」
「どう? 頭痛は治まった?」
「ううん、まだガンガンする。ちょっと息するのも苦しくなってきたかも」
「大丈夫?」
「ところでさ」
「うん?」
「そこの女の子のぬいぐるみ見て思い出したんだけど」
「どれ?」
「あの左端のやつ。あの服ってさ、よく
「そうだね」
「それに、こっちの男の子のぬいぐるみ、どことなく松岡の顔に似てるっていうか」
「そうだね」
「あいつら、急に学校来なくなったじゃん? どうしたんだろな? 先生も何も言わないしさ」
「心配?」
「そりゃあ、まぁ、一応クラスメイトだし、心配って言えば心配かな」
「大丈夫だよ」
「何が?」
「二人とも大丈夫だよ」
「何でわかるの?」
「いつもお話ししてるから」
「え? 安原、連絡取ってんの?」
「お話しっていうか、私が一方的に喋ってるだけだから、みんなには聞いてもらってるだけなんだけどね」
「どういうこと?」
「島田くん、気分どう?」
「あれ? なんか手が震えて……」
島田が横ざまに倒れた。
「大丈夫?」
「くる……苦しい……」
「大丈夫。すぐ楽になるから」
「やす……はら?」
「ねぇ、みんな、また新しい友達が増えるよ」
「誰と……はな……」
「次は誰がいいかな? 他の組の子にしよっか? クラスメイトばっかりだと学校と変わらないもんね」
「きゅ……きゅう、しゃ……」
僕の隣には島田が座ることになるようだ。意識だけが鮮明に残る、口のきけないぬいぐるみとして。
了
ぐいぬるみ 混沌加速装置 @Chaos-Accelerator
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