ぬいぐるみぐるい

@yayuS

第1話

 ぬいぐるみを見ると――僕は必ず思い出す。

 子供が塗りつぶした塗り絵のように、ぐちゃぐちゃに黒く染まった過去のことを。

 それは、黒歴史なんて言葉も知らない、僕がまだ、小学一年生の時だった。

 僕達が住んでる地区では、小学生になると、夏休みに皆でキャンプに行くイベントがあった。

 初めて、親と離れて友人と夜を共にする。

 大人になった今、考えればそれだけのこと。だけど、小学一年生だった僕に取っては、とても特別なことに思えた。

 だから、僕はとんでもない愚行を犯して、皆からの注目を集めようとした。


 キャンプ場に到着した僕は、荷物を確認し、ポツリと呟いた。


 お気に入りの『ぬいぐるみ』を忘れたと。


 しかし、僕はそんな『ぬいぐるみ』など、持っていなかった。

 家の中で遊ぶより、外で駆け回る方が好きな少年だった。

 幼いながらに、ギャップを友達に見せようとしたのだと思う。今思えば、そんなことをしても、意味はないと分かるが、当時の僕は、そうすることで、自分が漫画やアニメの主人公だと思いたがったのかも知れない。


 僕は身包みを剥されたかのような、勢いで持ってもいない『ぬいぐるみ』に対して涙を流した。

 同行する大人たちは、「可哀そうに」「ぬいぐるみを大事にする一面があるなんて、可愛いね」と僕を励まし、こっそりおやつをくれたりもしたっけ。


 キャンプという特別な場で、1人だけ特別扱いをされた僕は、大変満足だった。

 夜、上級生が恋愛トークで盛り上がるときも、「ぬいぐるみがいない」と泣いて構って貰ったっけ。

 子供ながらに最低な性格だ。

 最低で――馬鹿だった。

 その後に、何が待ち受けるか、幼い僕は想像できていなかった。


 特別扱いされたのはキャンプの間だけ。

 当然、家に帰れば、僕が『ぬいぐるみ』なんて持っていないと、親は知っている。そのことを知った上級生は、僕のことを――『ぬいぐるみぐるい』なんて馬鹿にしたっけ。

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