令和おとぎ話「獅子の分け前」
獅子の分け前
その男の名は獅子王レオンと言った。
粗暴な性格の上にギャンブル狂いで、日がなパチンコや競馬に明け暮れ、無職で金がないために、恐喝まがいのことまで平気でするクズの見本のような男だった。
レオンは今、父親の葬式にやってきていた。
「もう10年以上も顔を見ていない親父だったが、どうも財産はしこたまため込んでいたみたいだな。くくっ、ちょうどギャンブルの借金が溜まりに溜まっていたんだ。いいタイミングで死んでくれたぜ」
◇
葬式が終わった後、お通夜の席でレオンは2人の兄弟を前に言った。
ちなみに母親はとうの昔に亡くなっている。
「親父の財産は、3人の兄弟で均等に分けようと思う。だから1/3は俺がもらう」
「じゃあ1/3はボクの分ってことだね」
上の弟がそう言った瞬間、レオンは上の弟の胸倉をつかみ上げて、凄みながら言った。
「あ? 長男の俺がもう1/3も貰うに決まってんだろ。長男特権だ」
「だって3人で均等に分けようって――あぐっ!」
上の弟が最後まで言う前に、レオンの拳がその腹を強く打った。
上の弟は殴られた腹を抱えたまま、床にうずくまって痛みにあえぐ。
「あ? 今なんつった? あ? ああ? 兄貴に逆らう気か、お前?」
レオンが再び拳を振り上げるのを見て、上の弟は目を見開いて叫んだ。
「ボクは遺産はいらないよ!」
「よし、じゃあお前は相続放棄な。はい確定。おら、とっととここにサインしろや」
レオンは事前にネットで調べて用意していた書類一式を出すと、上の弟の頭をこづきながらサインをさせた。
「じゃあ残ったのは1/3だが」
レオンが下の弟に視線を向けると、下の弟は卑屈な笑顔を浮かべながら言った。
「もちろん自分もいらないっすよ! 自分は、遺産とか要らない系の弟なんで!」
触らぬ神に祟りなし。
無敵の人と化したレオンが平然と暴力を振るう様を見れば、財産放棄なんて安いものだった。
むしろこれを機に、金輪際この粗暴な兄とは縁を切りたいと心の底から思っていた。
そもそも弟2人は、遺産とか相続しなくても生きていけるくらいには真っ当な生活をしている。
「なんだ、お前もいらないのか。そういうことなら仕方ないな。親父の財産は全部俺が相続するとしよう」
こうして弟2人の財産放棄の書類を役所に提出して受理され、父親の全財産を相続することになったレオンだったのだが――。
「な、借金の取り立てだと? 親父にでかい借金があった? そんなの俺は知らねぇぞ! え、財産を相続すると、借金も同時に相続するだと!? そんな馬鹿な!」
こうして親父の財産とともに借金も全て相続してしまったレオンは、取り立て屋によって遠洋マグロ漁船に乗せられ、遠い海の彼方で借金を完済するまでひたすらマグロを取り続けることになったのだった。
相続放棄した2人の弟は、特に何もなく平和に暮らしましたとさ。
めでたしめでたし。
(ハッピーエンド)
令和おとぎ話(1)「リトル・マーメイド(人魚姫)」「アリとキリギリス」~現代の童話集~ マナシロカナタ✨2巻発売✨子犬を助けた~ @kanatan37
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