エンドワールドの転生者

Naka

第0話 転生

 神崎玲衣。十七歳。女性。

 特に目立った特技は無く、学校の成績も中の下程度。部活には入ってないけど、友人はそれなりにいる。彼氏はいないし、出来たことも無い。将来の夢は無く、進むべき道も定まらない。

 それが私だ。

 趣味と言えばもっぱら読書とかアニメとか。特に魔法が存在するものが好きだ。

 一度でいいから自分で好きに魔法を使ってみたいと思うだろう。私はそんな子供心を未だに持ち歩いているレアキャラであり、休日には街の川辺の土手で一人佇みながら魔法学校ものの本を読んでいたりする。

 今日も今日でいい天気だったので、私は土手で寝転がりながら読書していた。本はいつも持ってきているものとは違い難しい本だ。内容は全く頭に入ってこなかった。

 いつもなら時間の過ぎるのも忘れるほど読書に没頭するのだが、この日はものの数分足らずで飽きてしまった。


「たまにはと思って法律系の本を買ってみたはいいけど……格好つけるんじゃなかったな」


 青空に浮かぶ雲の形を見ていると顔の辺りに蚊が寄ってきた。腕でそれらを払うが、蚊はめげずに顔の周辺を飛び回る。挙句の果てに鼻に接近してくるものまで。


「ああもー、うっとおしい」


 美少女の顔面に何をしようとしているのか。

 防虫スプレーで全員纏めて撃退してやりたい衝動に駆られながら私はその場から撤退する。普通ならこれで蚊から逃げられるはずだ。

 だが今日の蚊はやけにしつこかった。

 逃げる私を追いかけて来たのだ。そんなに私の血が欲しいのか。

 男子にはあまりモテないのに蚊にはモテるとかちょっと嫌だった。イケメンな吸血鬼男とかならまだしも。味のある色っぽい声で「夜の世界へようこそ」とか言われたらきっと腰砕けになってしまうだろう。

 そんなことを考えている場合ではない。

 

「私の血は新鮮かもしれないけどぉー、もっといい人はいると思うんですけどー?!」


 私は川辺をひた走る。

 とりあえず横に横スクロールアクションをやっているかのようにひたすらに走り続ける。しかしまああの蚊たちも諦めないものだ。ここまで来ると何かおかしいんじゃないかという気もしてくる。

 その直感は当たっていた。

 前に踏み出した私の足が虚空を踏む。そのまま私の体は前に向かって倒れていく。

 地面は真っ暗で何も見えないし、何も無いように見える。それは紛れもなく大穴と呼ぶべきものだ。こんなものは今まで川辺には無かったはずだ。


「え、あれ……おわぁぁぁぁぁ?!」

 

 脳裏に浮かんだ疑問は落下していく感覚にかき消される。

 何かに引っ張られるように下へ下へと急加速する。

 蚊はどこかに消え去ったようだ。

 暗い洞窟を進んでいるかのように、周囲には何も見えないが、風を切る音からこの空間の大体の大きさが分かる気がした。

 恐る恐る手を伸ばした。

 手は何も掴めない。

 やがて下の方に光が見えてきた。暗闇に慣れた目が刺激され私は自然に目を閉じた。

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