第6話 帰宅してから
「ただいまー」
宏樹は1日ぶりに自宅へと戻った。
「ひとまず荷物を片付けなさーい」
「はーい」
病院で朝食を食べた宏樹は、それから軽い検査と診察受けてからすぐに退院した。
退院前の診察では体調面や精神面のことを聞かれたが、特に“変なもの”を見たか?と言う質問は無かった。
聞かれても言わないでおくつもりだったから、余分な手間が省けて都合がよかったかもしれない。
自宅へと帰った宏樹は、母に言われた通り昨日のままになっていた学校の教科書や、部屋着や制服といった衣類を整頓した。
30分ほどして片付けは終わってしまった。
お昼ご飯は病院からの帰り途中でファストフード店で軽く食べてきたから、もう今日は特にやることがない。
いつもの宏樹なら、やることがない時はベッドでゴロゴロしながらスマホでも見てて過ごしていただろう。
だがそれは、もう戻ることのできない過去の話だ…。
「片っ端から調べてみるかぁ」
荷物の整頓を済ませた宏樹は机へと向かいパソコンを起動した。
起動したパソコンのマウスを動かしてワールドネットへと接続し、検索する範囲を全世界・全言語対応へと切り替えた。
「全ての国で調べりゃ流石に出てくるよな」
今は便利な世の中になったものだ、2000語はあると言われる全世界の言語をリアルタイムで自分が使っている言語に変換してくれるのだから。
どんなに小さな情報でも欲しい今の自分にとってはありがたいことだ。
準備が整った宏樹は思いつく限りの単語をいくつも組み合わせて検索をかけた。
「『国内
「『御谷山 兵器』」
「『御谷山 周辺 戦争』」
「『ルゾンテ 兵器 目撃』」
「『ルゾンテ 兵器 テロ 街中』」
しかし、検索しても検索しても御谷山市内の街中で戦車を目撃したなんて情報は見つけられなかった。
あんな大きなものが街中をうろついていたなら、まず確実に誰かが目撃しているだろう。
今ごろ国家規模の大騒動に発展していてもなんらおかしくない。
なのにヒットするのは過去の国内外での戦争の歴史や市内の観光名所ばかり。
「これは…?あー全然違う…。これも…違うかぁ…………」
見つかるはずの証拠が見つからないとなれば宏樹が体験したあの出来事は、やはり医者の言っていた通り幻覚や悪夢の類であるということになってしまう。だが、宏樹はあれがなんらかの超常的な存在で、今だに人類が認知していないだけでなのだと信じて疑わなかった。
「『ルゾンテ 使われた兵器』」
「『
「『
「『ルゾンテ 戦車 目撃情報』」
「『ルゾンテ 戦争 場所』」
宏樹はその後も諦めずに、数十回と検索を続けた。
これが今の自分にできる最良の情報収集手段であるだけに、容易に引き下がるわけにいかなかったからだ。
そうやってカーソルを下に下に動かし始めてから、20分くらい経った時である。
「ん…??あ!!!…これって…!」
宏樹はモニターに顔をグイッと近づけてその写真を見た。
なんと写真には街中で宏樹に襲いかかって来たあの角ばった戦車によく似た車両が写っていたのだ。
「ケー…ブイ、2…。ケーブイ2?」
写真名には戦車の名称と思われる『KV-2』という文字が記されていた。
…こいつが何か握っているかもしれない!
気になった宏樹は藁にもすがる思いでその名称と思われる部分をコピペして検索してみた。
すると兵士と共にその戦車が映っている写真が無数にヒットした。
「間違いない!こいつだ!!!」
宏樹はまるで宝くじでも当たったかの様に興奮してそう叫んだ。
「KV-2っていうのかあの戦車!!!」
実際に先の戦争『
はやる気持ちをなんとか抑えた宏樹は、しっかりと座り直して冷静にその戦車についての情報を探し漁った。
敵の
…そんなのに撃たれてたら、えぐいことになってただろうな………
またこの戦車は
「これはこれで有益な情報だな……」
主に対峙した時に使える情報だといえるだろう。
射撃に時間がかかるならその隙に身を隠すことができるし、移動が遅いなら逃走も可能かもしれない。
さらに調べていくと他国に
宏樹が住む国で使われたとする情報もあったが、他のサイトには同じ情報は載っておらず真偽は定かではなかった。
「なるほどぉ…………」
宏樹は小一時間ほどKV-2やその他の戦車に関する情報を探していたが、ふとあることを思い出した。
「でも、これって
今は戦争が終結してもう半世紀近く経っている平和な世界。
当たり前のことだが、戦時中に戦車が使われたというのは常識中の常識。なんらおかしいところのない歴史の一部分だ。
「これじゃないんだよなぁ……」
時間をかけて戦車のことについて調べていた宏樹は、本当に知りたい情報を未だに得られていないということに気づいてしまったのだ…。
時刻はとっくに17時を回っていた。
ただでさえ外に行くのは恐ろしいというのに、時刻はちょうど昨日と同じくらいになっていて、部屋の窓から外を見るのも相当怖い。
正直自宅にいて安全なのかすら分からないから気が気ではないが、現状自宅にいるの最も安全だから今はここにいるしかない。
…明日、日中に図書館に行って調べるか…?いやいやいや、あんだけ調べて出てこなかった情報がそんな簡単に見つかるわけがない…
じゃあどこに行けばいいんだ?………
明日すぐ行けるような所にそんな施設は無いだろうな………
親に相談するか?…って、そんなことしたら自分も幸人の様に精神的なところを疑われかねない…。
俺が目撃したあれは間違いなく、幻覚や悪夢の類ではなかった。
なのにそれを証明するものは未だに見つかっていない。
「一体どうすればいいんだ…」
無数のサイトが映されているモニターを眺めながら宏樹は頭の中をフル回転させて、現状を打開する方法を考えた続けた。
しかし考えつく先いはどれも未来がなく、高い高い行き止まりにぶち当たるか、深い深い谷間で行き詰まってしまうかしかなかった。
そんな思考を絶え間なく続けていると、いつしか宏樹は脱出不能な大迷宮に迷い込んだ様な感覚に陥っていた。
「くそっ!どうすればいいんだよ!!!」
あまりに自分が惨めであまりに救いのない状況に宏樹は苛立ちを隠せなかった。
そんな時、部屋の扉が突然開いた。
「宏樹…?大丈夫」
「あ、お母さん…?」
「なんか言ってたみたいだけど…」
「全然、大丈夫だよ!」
どうやらさっきの独り言を母に聞かれてしまったようだ。
「お母さん、少し買い物に行って来るけど、大丈夫よね?」
「うん、大丈夫だよ」
宏樹は心配されることを避けるため咄嗟に平静を装った。
「すぐ帰って来るからね」
「わかった」
そう言って母は自転車に乗って自宅近くのスーパーへと向かって行った。
「はぁ………」
一人取り残された宏樹は、どうしようもなく孤独だった。
別に母がいなくなったから寂しいというわけではない。
ただ、今この瞬間にも外の世界では自分を除いた全ての人間がいつもと変わらず活動しているのだと思うと、惨めな気持ちになって仕方がないのだ。
「どうすればいいんだろ俺、これから…」
宏樹はただ何を考えるでもなく、椅子に座ったままボーッとモニターを眺めていた。
1日かけて検索したが結局なんの収穫も得られず…新しい手がかりはまるで思いつかない。
そうやって途方に暮れていたその時、なんの前触れもなく宏樹の視界に青白いものが映った。
「うわっ!なんだ…!!???」
あまりに驚いた宏樹は思わず椅子から転げ落ちた。
椅子をどけて机から這い出た宏樹が再び上を見つめると、そこには…
あの時の青白い人玉が浮かんでいたのである。
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