銀河級のぬいぐるみを観測しました

佐倉じゅうがつ

神の日常

 若者が息をみだして手招きをした。

「先輩! 見てください!」

 おどろくのも無理はない。宇宙望遠鏡が撮影した「それ」は、およそ常識では考えられないものだったからだ。先輩と呼ばれた中年の男は、画像を目にしたとたん尻もちをついた。

「バカな、ありえない!」


 たちまち天文台が騒然となった。ある者は頭をかかえ、あるものは硬直したまま動かず、またある者は大声で笑いころげていた。

 まるくて小さな耳。あごが発達した大きな頭。太くてずんぐりとした胴体。体とくらべ短めに見えるふっくらとした手足。誰もが知っている、いわゆる「クマのぬいぐるみ」が、宇宙空間にて発見されたのである。


「計算が正しければ全長10万光年を超える。銀河とおなじくらいのサイズだ。宇宙最大のぬいぐるみ、ということになるな」

「いやいやいやいや。絶対なにかのまちがいだって。計算とかそういうレベルじゃないでしょ。もしかして夢なのかな? ちょっとほっぺたをつねってくれない?」


 たったひとつのぬいぐるみに、世界の首脳陣がふるえあがった。厳重な情報規制によって、一般人がそれを知ることはなかった。いっぽう研究者たちは「ぬいぐるみ監視チーム」を結成して分析をつづけた。



 ある日、遠い国の電波望遠鏡チームが奇妙な電波を受信した。それはに一定の法則をもつ「メッセージ」にも思えた。報告から数週間後、ぬいぐるみに異変がおきた。


「ぬいぐるみが動きはじめました!」

「ウオオこの質量はアンドロメダブラックホールの100億倍に匹敵する……」

「いったいなにが起こってるんだ、ああ!」


 ぬいぐるみは、観測範囲の外へと消えた。

 いったい何がおきたのか。研究チームは大いなる謎を生涯かけて解き明かそうとちかった。



『ねぇパパ、あれ買ってよぉ〜!』

『つぎのボーナスまで待ちなさい』

 人類が前兆となった電波……メッセージの意味を解読し、大いなる者たちの存在に気づくのは、遠い未来のできごとである。

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