大事に持ってるんだね。
嶋田ちか
差し入れには気をつけて。
「みんなー!今日もありがとー!!また会いに来てねー!」
スポットライトが暑い。
汗ばんだ身体をタオルで拭きながら、ミネラルウォーターをぐーっと飲み干す。
今日のコンサートもなんとか終わり。アイドルになって1年経つけど、だんだんと新しいファンも増えてきてる気がする。
人気出てきちゃったかな?
ふと前を向くとニヤニヤした自分と目が合った。調子に乗りすぎるのもよくない。反省反省。
頬をパチパチと両手で叩く。
「みんなお疲れ様ー。今日もファンのみなさんからプレゼント届いてるので確認してねー」
マネージャーがバタバタと箱をたくさん持ってきて、慌ただしくまたどこかに行ってしまった。
ファンからのプレゼントは、実際複雑だ。
高級なブランド物は好みに合わなかったり、お菓子は食べるのが怖くて結局捨ててしまう。
今日はなにがきたのかな、と自分の名前が書かれた箱を除くと、そこには黒いビニール袋が入っていた。
一応うちのルールとして、ファンからもらったものは包装紙を剥がしてマネージャーが確認する。
この袋も確認されているはず。
気味悪さを感じつつもそーっと袋を開けると、中にはいくつかのぬいぐるみが入っていた。
ぱっと見た感じ綺麗ではあるが、ところどころ切れていたり、糸がほつれていたり、シミがついていたり。
明らかに新品ではなかった。
「きもっ」
思わず言葉が漏れる。
インスタでプレゼント感謝の投稿したら捨てよう。
いや、一刻も早く捨てたいから、今写真撮ろう。
そう考えてプレゼントを机の上に並べて写真撮影。
なんだか気持ち悪くて、ぬいぐるみの他にもらったプレゼントも全部まとめて捨ててしまった。
「今日もたくさんありがとう、プレゼント嬉しい、と」
無事投稿を終えて帰宅する。
その時、珍しく母から電話がかかってきた。
「あんた、アイドル活動頑張ってる?ちゃんとご飯食べてんの?」
「頑張ってるよ。インスタとかもフォロワー増えてるでしょ」
「そうそう、そのインスタだけど。お母さんびっくりしちゃったよ。小学校卒業して捨てたと思ってたから。
あんた、あのぬいぐるみたち、まだ大事に持ってたんだね。」
大事に持ってるんだね。 嶋田ちか @shimaenagon
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