ぬいぐるみの名は『ヤスオ』
黒羽冥
第1話『ヤスオ』
昔から私とずっと友達だったぬいぐるみがいる。
小さな私がつけた名前は『ヤスオ』。
何故この名前をつけたか…それは幼少期に戻る。
◇
◇
◇
「うぇぇぇーーーーーん!」
このとびきりの大声で泣いてるのは五歳の私。
私は小さな頃から引越しの連続で友達が中々出来ずにいた。
だから引越し先で友達を作ろうと頑張っていたのだが…その思いは中々叶わなかったのだ。
運良く友達が出来た時はまた引越しになったり…良くも悪くも私には中々友達という存在は出来ないものと思っていたのだ。
そんな私を見かねて両親が私の六歳の誕生日にプレゼントと称しくれたのはクマさんのぬいぐるみだったんだ。
私はこのぬいぐるみに『ヤスオ』と名付け毎日毎日どこへ行くにも一緒に過ごしていたんだ…まるで姉弟の様に。
なぜ私がヤスオという名前をつけたかであるが…当時ハマっていたアニメの主人公の名前がヤスオだったからだ。
そして『ヤスオ』と過ごす日々はそれまでの私のうっぷんを一気に晴らすかのように楽しいものだったんだ。
ヤスオはぬいぐるみ…動けはしないけどいつしか私のストレス解消の相手になっていた。
◇
◇
◇
まあ…そんな事があったけれども大人になった頃にはぬいぐるみという物の存在は次第に忘れていく事になる。
小学校、中学校…そして、高校大学と…。
様々な人達と出会い…そして私の生活も自然と変わり私自身も大人へと成長してきたのだ。
ある日の事大学生として私は勉学の励み…だけど親に全て頼る訳にもいかずバイトも始めた。
家は出て一人暮らし…友達という友達はこの歳になると自然と一人や二人はいる訳で…私の中ではもう一人ぼっちと感じる事は無くなっていた。
「うんうん…それでさ。」
私は友人と通話を楽しんでいた。
そして電話をきると眠りにつこうと布団に入る。
「そういえば明日は三月三日でひな祭りか…」
ふと昔の事を思い出す。
「ひな祭りね…私の雛人形ってまだあるのかな…雛人形…ぬいぐるみ…『ヤスオ』。」
私の頭にふとよぎったのはずっと友達だった『ヤスオ』の事だった。
住む所…学校も転々としていた私はいつの頃から大切にしていたぬいぐるみ『ヤスオ』を部屋に放置して流石にもっては歩かなくなっていた。
もちろん今は実家から離れ一人暮らし…持ってきても良かったのだろうけど…。
私は今ではヤスオの存在をすっかり忘れていたのである。
「さ…寝ようかな……。」
私が眠りにつく。
1時間…2時間……一向に眠れそうもない……。
「だめ!寝れそうにないよ…。」
私の目は完全に覚めていたのである。
すると頭の中に不思議な声が聞こえてくる。
(ねぇ………。)
「えっ?誰?」
(僕だよ…僕の事……忘れたの?)
「僕ってだれよ!?」
私がガバッと布団を跳ね除けるが辺りには誰の姿もなくシン…と静まり返っている。
(やだなぁ…小さい時ずっと一緒に遊んでいたじゃない?)
「えっ?」
ふと私の目の前にボゥっと光に包まれたぬいぐるみ…忘れもしない『ヤスオ』の姿があったの。
「ヤスオ!?」
(そうだよ…ヤスオだよ!元気してたかな?)
「ってヤスオがどうしてここにいるの?」
(これはね…僕の思いが形になったんだよ?)
「ヤスオの思いって何よ?」
(僕は君に忘れられてからずっと願っていたんだ…でも…これは君が昔望んだ事なんだけどな…。)
私は自然と過去を振り返る。
◇
◇
◇
「ねぇ…ヤスオ……私ヤスオが居てくれて本当に嬉しいけど…やっぱり話したり動いて一緒に遊べたらいいのに。」
(…………………)
「なんてね…こんな叶わない事考えてないで遊ぼっか!?」
(…………)
◇
◇
◇
「確かにそんなお願いしてみたけど実際叶うわけないし…でもでも、今は私大人になったしもうヤスオに頼らなくても生きていけるようになったわ!」
(そう…みたいだね…でもね……あれから僕は君の願いを叶えようと必死に神様にお願いし続けてきたんだよ…そして……こうしてやっと叶ったって訳!)
「そうだったんだ…でもそれは本当にありがとう!でも…もう大丈夫よ!」
(そうはいかないよ…。)
「えっ?」
(僕はあれからずっと願い続けて禁呪の呪法というものを神様から聞いて呪法を使ってようやくこうして話せるようになったしさ、これからはずっと君と一緒さ。)
「えっ?でもそんな事勝手に決められても…。」
(大丈夫だよ…僕は君と永遠に一緒だから。)
「無理だよヤスオ。」
(永遠に君と……。)
眩い光が私を包んでいく。
◇
◇
◇
「おはよう。」
「……………。」
「今日はどうしようか?」
「……。」
◇
◇
◇
光に包まれた私は…今はヤスオ様のぬいぐるみとなってしまっていたのでした。
「うーん…さて……今度は僕が君に名前をつける番だね…『………』にしよう。」
ぬいぐるみの名は『ヤスオ』 黒羽冥 @kuroha-mei
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