ぬいぐるみ
Totto/相模かずさ
ぬいぐるみ
「幼い頃、うちは貧乏だったの」
そう言いながらマキはペットボトルの炭酸水をゴクっと一口。
細身のマキには微かに喉仏があるけど、細い首には似合ってるんじゃないか。
ソファに深く腰を沈めて、もう少しでミニスカートの中身が見えそうな扇情的な格好をしているくせに、身持ちが硬いのは知ってる。
「ぬいぐるみなんて買えなくて、母が妹に手作りしてたのが羨ましくてね」
「マキだって作って貰えばよかったじゃん」
「なんて言うのよ、あたしもぬいぐるみ欲しいって?」
パタパタっと手を振るマキはとても可愛い。
ショートカットのうなじがチラチラ見えるとか、アーモンドの形の茶色い瞳がキラキラと輝くとか。
「もう、お母さん何も言ってこないんだろ?」
「まあね〜、もう諦めたみたいよ。あたしこんなんだし大学なんてわざわざ性別言うこともあまりないしね」
「俺も最初騙されたもんな」
「それを言うならあたしだって! サトには本当に騙された」
クックッと笑う自分達はどこか似てるようで似ていない、お互いをいい友人だと認めていることは間違いないが。終電を逃すたびにマキのマンションに招かれ、時折同じベッドで寝るくらいには仲がいいはず。
「さて、そろそろ始発かな。あ、マキこれあげるよ」
そう言いながら渡したのは、手のひらほどの大きさのぬいぐるみにストラップがついたチャーム。最近お気に入りのゲームのマスコットキャラクターなのだがダブってしまったのだ。
「あら、サトがこういうのあたしにくれるなんて。何よ、彼女に振られた?」
「うん。付き合ってみたら、『やっぱり女の人だったんですねぇ』だって」
この部屋を出て行こうと立ち上がったが、突き出されたマキの右手がグーの後、親指が出て下を向いた。
大人しくストンと腰を下ろした俺。
マキの目が笑っていないと言うことは、話を聞いてくれるらしい。とことんまで。
この人付き合いの良さが友達を増やす秘訣かと思う。
「サト、美里、あんたはふわふわした乙女ちっくな子は似合わないってば」
「わかってるんだけどね、自分にないものを求めるんだよ人は」
「そうねぇ、お互い難儀だわ」
似ているようで全然違う、好みも何もかも正反対。
それでも俺たちは、真綿に包まれたぬいぐるみのように外見を飾って、演出して、
ぬいぐるみのように愛されないけど、生きている。
ぬいぐるみ Totto/相模かずさ @nemunyo
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