第3話 天狗に相談だ!

陸はゆいおっぷのプルーフを一読して首を傾げた。

喫煙所のベンチに座った河野は、ゆっくりとタバコの煙を吐いた。

3月になり、吹きっさらしの喫煙所も過ごしやすくなってきている。陸と河野はここでお互いにおすすめの本を勧めあうのが日課になっている。天狗と人間が本をお勧めしあう光景はなかなかシュールだ。

「この本、何なんすか? 初めの話と後の話が全然別なんすけど。なんで途中で買い物メモが始まるんすか?『クェっちゆ!』って何?」

「ここの店長が面白いって言ってきた本だ。面白くない俺がおかしいのかと思ったんだ」

「いや、河野さんはおかしくないっす。おかしいの店長っす」

陸はそう言って河野にプルーフを河野に返した。河野はタバコを持っていない方の手でプルーフを手に取り、ベンチに置いた。

「やっぱりそうだよな。天狗でもおかしいとは思うよな」

「天狗じゃなくてもおかしいと思うっす。何なんすか、この本。まさか河野さん、この本めちゃくちゃ売れとか言われたんすか?」

「もしかしたらそうなるかもしれない」

「やばいっすよ。こんなの店に並べた日には返本の嵐になるっす。商品未満っす」

「やっぱりそうだよな」

河野は大きなため息をついた。

「ドンマイっす」

「陸」

「はい?」

「なんか、こう、天狗の術的な何かで何とかできないか。店長を意のままに操るとか」

「無理っす」

「出来ろよ。店長に催眠術かけろ! 出ないとうちの店は返本の嵐だ」

「そんなこと言っても天狗は風起こすことぐらいしかできないっす」

「じゃあ、台風でゆいおっぷをウチに運ぶトラック横転させたり、ゆいおっぷ出してる英心書店を台風でめちゃめちゃにしろ」

「そこまでの力、ないっす。俺、人間1体飛ばすので精一杯っす。それに、そういうのって無関係の人も巻き添えっすよね。俺、そういうの嫌っす」

「ぐぬぬ」

河野は腕を組んで、眉間に縦皺を刻んだ。

「河野さん、落ち着くっす。まだ、この本を積極的に売れっていう業務命令的なものはまだ出てないんすよね?」

「ああ」

「だったら、別の店員さんとかに相談したらいいんじゃないっすか。他にも偉い人、いるっしょ。店長さんだって独裁者じゃないし、みんなから反対されたら流石に考え改めるんじゃないっすか?」

「まあな」

「こういう時は他の人とかに相談するのが一番っす。俺なんかより頼りになるっす」

「そうか。それもそうだな」

河野はゆっくりと立ち上がり、タバコをスタンド式の灰皿に捨てた。

「陸、ありがとな。とりあえず、俺はこれからの仕事を頑張ることにするよ」

「河野さんファイトっす」

河野は陸に手を振りながら喫煙所を去っていった。

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