愛なんですが

@kawaiimira

第1話

「今日は早く帰って来るから一緒にご飯食べようね」玄関を出る前に幸次に言った。

駅へ向かう道は人通りもまばらで、冬の風が冷たかった。一緒に住んでるのに寂しいからかな。幸次とは高校の同級生で付き合いはじめて、高校卒業後一緒に暮らし始めた。すぐに結婚すると思ってたので、私の就職先の2駅先の駅の近くに住み始めた。幸次は、職を転々としていた。理由は上司がムカついたとか、重労働がきついとか、客にキレられたとか。今は次の就職先を探すために、ネットで調べては色々な理由をつけて、なかなか次に進まない。昼間寝ていて私が帰る頃に私のお金で夜遊びに出掛ける。生活が真逆なので、この2ヶ月ほとんど顔を合わせていない。今日は私の誕生日である。先月、高校時代の仲良し4人組のみづちゃんが結婚した。残るは私だけだ。今年で28歳。焦りは無いけど、久しぶりに一緒にご飯食べたいな、そろそろ、職についてもらって安定した結婚生活を送る準備をしたい。


「佐々木さん、これまた間違えてるけど難しい??」課長の声が頭の奥にズンと響く。給料明細を打ち間違えたらしい。今時、手打ちで給料計算、手打ちで給料入力してる会社なんてあるんだろうか??間違えたくて間違えてるんじゃないけど、もう限界なのかもな。すぐに結婚すると思ってたので、何の魅力もないけど、駅から近くて少しは融通がきく、小さな工務店の事務をしていた。課長と私とパートのおばさん2人、あとは現場の職人が数人。特に辞める理由もなかったので10年働いている。


スーパーで食材を買って急いで帰って幸次とご飯を食べようと思ったんだけど、ふと時計を見たら5時45分。あと30分電車に乗ってればデパートのある駅に着く。そのまま電車を降りなかった。デパートの駅について、銀行のATMに向かう。カードを持ってないので、お金をおろした。節約しなきゃと思って貯めてきたお金。コスメ売場の一番目につくコスメカウンターへ向かった。あ!この前YouTuberが紹介してたやつだ。いつもドラッグストアの安いコスメ御用達の私には全てがキラキラに見えた。「何かお探しですか??」バッチリメイクのきれいなお姉さんが話しかけてくれた。多分私より年下だよね。基礎化粧品、ベースメイク、口紅にアイシャドウ、全て揃えた。お客様カルテみたいなのを作ってくれたみたいだったけどきっと沢山買う気前の良いお客様って書いてくれたと思う。だといいな。おろしたお金がまだ残っていたので、5階のブランドフロアへ向かった。以前から気になっていたFENDIのバッグを見つけた。今日から私はかわるの。FENDIのバッグもあっさり買った。


30分電車に揺られて自宅近くの駅まで戻り、近所のスーパーで見切り品の惣菜と欲しかったバースデーケーキは見つからなかったので、菓子パンコーナーにあったホットケーキを買った。

「ただいま」「お帰り」「今日の飯は何??」「・・・・・・」「どうした??」

いつもなら寝ているか出掛けていていない幸次が寝転がってスマホのゲームをしながら、質問してきた。きっと朝の私の一声が聞こえてたんだと思う。


でもね、私変わるの。幸次、ごめんね。

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