冬桜

@kyabetu_kun

第1話

冬桜が咲いた。今年は量が多いらしく、都心には警報が出ている。


交通機関は全て運休となった。




東京駅にある1本の巨大な冬桜の木から、東京中に花びらが舞っていく。


夜になると、花びらのピンクが闇夜を照らし、それはそれは綺麗な景色となる。


雪がふる日も重なると、より一層幻想的だ。




しかし満開の冬桜を直接見ることはなかなか難しい。


冬桜には毒性があり、花びらにふれると記憶の一部が失われてしまうのだ。


物の名前、運転の仕方、昔の思い出、明日の予定、など。




そのため、冬桜が降る12月の一週間はまともに外出することが出来ない。




基本的に、室内から冬桜が降ってくるのを眺めるしかない。


しかし、窓をあけて冬桜に触れてしまい、記憶が失われる事故も例年多発している。




都民は冬桜の毒性について周知であるはずだが、このような事故が起きる理由もある。




花びらには、毒性を知っていてもなお触れたくなるような輝きがあるのだ。


窓の外の花びらを見ていると、触れたい、触れなければいけない、と意識を奪われつい手を伸ばしてしまう。




そのため、基本的に警報が出ている間は、窓に近づいてはいけない。




失われた記憶がどこにいってしまうのか、知る者は誰もいない。


静かに散り続ける冬桜に、人々は憧れと畏怖を持って見守るしかない。


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