第97話 最底辺だった配信探索者の現状

「じー」


「じー」


「じ……」


 奈々と綾瀬さんにリンまで俺をジト目で見つめる。


「し、仕方ないだろう! く、くっついて寝たんだから!」


 俺とシホヒメの朝のやり取りをみんな見ていたらしい。


 それからしばらくの間、メンバーたちからジト目で見られたのは言うまでもない。




 火山ダンジョンと試練の件もあって、今日から一週間休むこととなった。


 みんなそれぞれ自由時間にして一週間のうち、五日間は配信のことを全て忘れて、体を鍛えるとかもせず、のんびり過ごすことにして、後半二日は少し体を慣らす予定だ。


「試練も火山ダンジョン攻略もおめでとう! エム殿!」


「ありがとう」


 ディンがおめでとうと言いながら、両腕でしか持てない大きな――――バラの花束を渡してくれる。


 生まれて初めてバラの花束をもらった。


 受け取った花束からはバラの良い香りが広がっていく。


 当然といえば当然か。


 それにしても……バラか。こんなもらったことないからどうしていいか分からないな。


「エム様~綺麗なバラですね~飾っておきますよ~」


「美保さん。お願いします」


「は~い」


 美保さんがバラを受け取ると、手際よく飾ってくれた。


 普段から綺麗にしてるし、花を飾っているのもあって、あまり違和感はない。


 そのとき、後ろから柔らかい感触が伝わる。


「エ~ムくん!」


「うわっ!? マホたん?」


 後ろから抱き着いたマホたんが横からひょっこり顔を出した。


 うん。めちゃくちゃ可愛い。


「あのね。パーティーの件の相談があるんだけど、いいかな?」


「もちろん」


 何故かそのまま、二階のベランダの方にマホたんと二人っきりで出た。


「エムくん。以前聞いたことの返事はまだぁ?」


「返事……?」


 むくっとなるマホたん。


「ほら、私の――――彼氏になるっていう」


 あ、ああああ!


 そ、そういや、マホたんとリリナからそう言われていたし、臨時パーティーを組むときも言われていたな……。


「それなんだけど…………やっぱり、誰かと恋愛とかあまり考えていない……かな」


「ふふっ」


 マホたんは優しく俺の胸を拳で突いた。


「私みたいないい女逃がして後悔してもしらないわよ?」


「そりゃそうだよな……」


「――――その気になったら、いつでも連絡ちょうだい?」


「え……?」


「まあ、その前にエムくんよりいい男捕まえたら遅いけどね~」


「お、おう……」


「ねえ。エムくん――――でも酒はまたもらいにくるからね?」


「やっぱり酒かよ! 俺じゃなくて酒が目当てじゃないか!」


「当然でしょう! エムくんなんて最高の酒だもん!」


「俺は酒じゃねぇ!」


「ふふっ。それとパーティーのことなんだけど、ディンからそろそろ戻ってきてくれと言われて、【栄光の軌跡】に戻るね?」


「分かった。今まで色々ありがとうな」


 マホたんと握手を交わして、彼女はベランダを後にした。


 最後まで笑顔だった――――はずなのに、振り向いた彼女からは、悲しげな背中が見えた。


 涙……? いや、勘違いだろう。


 少しの間、ベランダから見える景色を堪能して部屋に戻ると、ディンたちはパーティーの相談があると帰ったらしい。


 のんびりするのかなと思ったけど、意外と早かったな。


「お兄ちゃん~今日は何する?」


「今日は体力を残そうかなと思ってる」


「体力を残す?」


「ああ。明日やりたいことがあってな。奈々も空けてくれるか?」


「もちろん!」


 奈々とその頭に乗ってるリン両方の頭をポンポンと撫でてあげる。


「明日、すごく楽しみ~!」


「ああ。楽しみにいこう。あとシホヒメと綾瀬さん、美保さんも誘おうか」


「うん!」


 それからみんなの明日のスケージュールを確認して、みんな空けているってことで、明日はみんなで遊ぶ・・ことになった。



 ◆



 翌日。


 俺達がやってきたのは――――


「わああああ~! 遊園地~!」


 奈々が目を大きく見開いて、興奮気味に声を上げた。


 今日はかねてから奈々と一緒に来たかった遊園地にやってきた。


 人数は偶数に合わせたいこともあって、リンに人の姿になってもらった。


 従魔だと、中に一緒に入れないっていうルールもあって、リンもちゃんと納得してくれたし、入場券を買うときも遊園地にも断っている。


 入って最初にあるのは、お土産店や売店が並んでいる。


「お兄ちゃん~! あれほしい!」


「よし、何でも買ってあげるぞ!」


「わ~い!」


 俺の手を引いて足早に向かった場所にあるのは、動物をモチーフにしたカチューシャだ。


 最近でいうと綾瀬さんがダンジョンで兎耳をするようになったのと似たものになる。


 デザインは動物アニメキャラの耳部分。


 奈々だけでなく、俺やみんなの分まで買った。


 みんなそれぞれネズミ耳だったり、虎耳だったり、兎耳だったりと、みんな可愛い。


「お兄ちゃんもすごく似合う~!」


「ほ、本当か? こういうの付けた事ないからな」


「ふふっ。私と里香お姉ちゃんはいつも付けてるからね~もう慣れたもんね~」


 二人ともものすごく可愛いしな。


「わあ~! 志保お姉ちゃんめちゃ可愛い~!」


「えっへん! この可愛さをアピールして、エムくんが次のカチューシャを手に入れたら、私がもらうんだからね……!」


 奈々と綾瀬さんが着用したから、残るのはシホヒメだけなんだからその心配はないと思うんだがな……まぁ、男モノになると俺になるのか?


 それからみんなでアトラクションに乗り始めた。


 一つ一つ待ち時間は多かったけど、みんなと一緒でとても楽しかった。


 基本的に二人一組になるので、待ち時間の隣に立つメンバーは代わる代わる並んだ。


 奈々、シホヒメ、綾瀬さん、リン、美保さん。


 その時のメンバーでそれぞれの楽しさがあったし、アトラクションもとても楽しかった。


 人生初めてのジェットコースターやバイキングなど、色々乗ることができた。


 一日中、夢中になって遊園地で遊び倒した。


 日が傾き始めて、夕焼けが綺麗になった頃。


 順番とかは決めてないけど、今回乗るアトラクションではシホヒメとの番となって乗った。


 乗ってから二分間会話がない。


「…………」


「エムくん……?」


「お、おう!」


 顔を合わせて座るアトラクションなんてなかったのに、ここに来てまさかの――――観覧車。


 正面に座るシホヒメ。夕陽を受けた綺麗な金髪は少しあかみを帯びて、ますます美しく見える。


「…………私といると……つまんない?」


「!? い、い、いや、そんなことない」


「そっか……でもちょぅつと辛そう?」


 辛そう!? そんなはずなんてない。いや、ある意味・・・・辛い気もする。


「ほら、夕陽で顔が赤く見えるだけじゃないか?」


「そっか!」


「…………」


「…………」


「…………」


「ねえ。どうして――――マホちゃんを断ったの?」


「えっ?」


「ほら、昨日」


「…………聞いてたのか?」


「ううん。聞かなくても見ただけで分かる」


「そっか…………いや、俺に恋愛はないかなと思って」


「そう……なの?」


 ない……というのは少し違うけど、正直言って誰かと付き合うだの恋愛だの、どうすればいいのか全然分からない。


 俺にとっては元気な奈々がいてくれて、こうして一緒に過ごして楽しい仲間がいてくれたらそれでいい。


「エムくん……? 私って…………迷惑かな?」


「迷惑!? そんなはずないだろ!!」


 思わず大きな声を上げてしまって、シホヒメがすごく驚いた。


「ご、ごめん。大きな声を出してしまった」


「う、ううん――――すごく嬉しい!」


 パーッと笑うシホヒメ。


 ああ…………女神…………ん? 女神?


「エムくん!」


「ん?」


「――――私、エムくんのこと――――――――」


 それからシホヒメが口にした言葉。


 あの言葉を俺は一生忘れることなんてできない。




 あの頃、ずっと眠そうにしてて、学校内でも一人だけ金色の髪が目立っていた彼女。


 ひょんなことから、こうしてパーティーを組むようになるとは思わなかったし、彼女の満面の笑みを間近で、正面から受けられるとは思いもしなかった。




「お兄ちゃん~戻ってこい~」


 俺の頬っぺたを押す奈々。


「ぬあっ!?」


「楽しいからってボーっとしすぎだよ? お兄ちゃん。ほら、あ~ん」


「お、おう……」


 観覧車から記憶が飛んで、気付けば食事中だ。


 奈々が食べさせてくれたご飯は世界一美味かった。


「「あ~! 私も~!」」


「えっ」


 今度は綾瀬さんとシホヒメが並び、その後ろからニヤリと笑うリンが見えた。


 当然、拒否することなんてできず、みんなから一回ずつ食べさせてもらった。


 食事も楽しみ、遊園地の夜景も楽しんでから、帰路につく。


「お兄ちゃん~また来よう?」


「そうだな。今度も――――またみんなで!」




 ダンジョンで配信をすることで、色んなことがあった。


 時には死にかけもしたけど、大切な妹や従魔、仲間たちに囲まれて、本当に大切なものは何かを気付かせてくれた。


 そして、俺達はこれからもずっと共に――――ダンジョンに潜り続ける。






――――【二章了&告知&感謝】――――

 ここまでブラックスライムを読んで頂き、本当にありがとうございました!

 一章に続き、二章はいかがだったでしょうか?

 作者としましては、エムくんとシホヒメの小さな関係が微笑ましくて、常にニヤニヤしておりました。

 

 そこで皆様へ、ご報告がございます!

 なんと、ブラックスライム――――――――別サイトになりますが、第4回集英社WEB小説大賞にて、【金賞】という素晴らしい賞を頂けましたあああああ!

 これもすべて、日ごろ皆様が読んでくださり、コメントをくださったりと応援してくれたおかげです!

 こうして皆様の応援が実を結んで、自分も大きく成長できたことを嬉しく思います!

 皆様、日々応援してくださり、本当に本当にありがとうございました!!

 これからも皆様に面白い小説を届けるように頑張っていきます!!


 これでブラックスライムの書籍化が確定しまして、まだ先にはなると思いますが、書籍という形で発売されると思います!

 エムくんやシホヒメ、リン、綾瀬、奈々の絵がきっと見れると思いながら、作者もソワソワしております!

 書籍版は、編集者さんとともに、より良い作品となるように頑張っていきますので、発売した時にはぜひ手に取って頂けると嬉しいなと思います。


 再度になりますが、たくさんの応援、本当にありがとうございました!




 あっ! ★まだ入れてなかった! という方はぜひ★を入れてくださると嬉しいですっ!

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