第4話 ブラックスライムの使い方

 っ!? い、急げ…………こんなところでケガしている場合じゃない!


 しかし、体がいうことを聞かず、ただただこれから訪れるであろう痛みと狩りを続けられない事と、配信で自分の恥を晒す行為に色んな思いが溢れる。


 次の瞬間――――俺の目の前にダークラビットが落ちて・・・きた。


「えっ?」


 間抜けそうな声を出したのは、落ちてきたダークラビットが普通の姿ではなかったから。その体の中心部に大きなが開いていた。


『ブラックスライムつえぇぇぇ!』

『正真正銘のURキタァァァァァ!』

『今のピュンすげ!』


 何が起きたか分からないが、通り過ぎるコメントを読む分にはブラックスライムが何かしたのか?


「ブラックスライム……?」


「あい……ご主人しゃま……守るもん…………」


 助けてくれたのか……? そもそもそれなら一緒に戦ってくれよって言葉が喉仏のどぼとけまで上がってきたけど、言うのをやめた。


 それにしてもどうしてこんなにも体が重いんだ?


 何とか立つことは厳しかったけど、座り込んだ。


「いや、探索者になって初めてだけど、体調管理ができなかったみたいだ……視聴者のみんな、すまん」


『いいって。そんな日くらいあるさ』

『無理すんなよ~ダンジョンで命を落とす探索者も多いからな』

『初心者ダンジョン一階で一年以上戦って死にかけるとか草w』


 心配してくれる人のコメントの方が多い。配信なのだから仕方ない。それでも暖かいコメントは嬉しくなるばかりだ。


 頭の上に乗っていたブラックスライムを両手で大事そうに抱えて前に出した。


「助けてくれてありがとうな」


「うん……」


『ブラックスライム凄かったぞー、黒い棘みたいなの出してた』


 コメントで状況を教えてくれると助かるな。


「なあ、ブラックスライム。その黒い棘っていうの見せてもらえるか?」


「あい……」


 すると、ブラックスライムの体から後ろに大きな棘が一瞬で生えた。ものすごく鋭い棘はちょっとしたホラーだ。


『ダークラビットを貫いたから刺されたら痛そうだな』

『怖ぇぇぇぇぇ!』


 棘が戻って元のスライムの姿に戻った。


 魔物としてのスライムというのは中級者向けの魔物で、ダンジョンでももう少し深い場所で出現する。スライムは打撃や斬撃に強く、魔法にめっぽう弱い。


 今までガチャからNしか引いたことがないからあれだが、URというくらいだから強い従魔で間違いないかも知れない。


『エム氏。ブラックスライムは戦わないのか?』


「戦いたくないらしい。めんどくさいってさ」


『めんどくさいは草w』

『さすがエム氏のガチャ産従魔だわw』


「どういう意味だよ! くっ……」


『でも助けてくれるんだ?』


 さっき助けてくれた時、ブラックスライムは俺を守ると言ってくれた。


「ブラックスライム。その棘を出すのは疲れないか?」


「うん……疲れないよぉ…………」


「疲れないのか。それなら近づいて来た魔物をその棘で倒してもらっていいか?」


「いいよぉ……」


「おお!」


『有効活用法キタァァァ!』

『それなら頭じゃなくて違う部位にくっつけた方がいいな』


 それもそうだな。


 ブラックスライムを胸にくっつけてみる。もちろんちゃんとくっついた。


『おっぱいかよww』


「!?」


 急いで剥がして、今度は腹にくっつける。


『せっかくスリム体型なのに、なんか残念だなww』

『むしろ間抜けなエム氏なら丁度いいかも』


 くっ……。また剥がしてさらに下を見る。


『おい、そこはやめろwwww』

『ブラックスライムに敵だと思われて刺されるぞww』

『金玉と黒玉…………』

『いや、逆に仲間だと思われるかも知れない』


「そこはいや…………」


 どうやらブラックスライムも感づいたらしい。


「くっ……どうすれば…………」


 その時、とあるコメントが目に入った。




『エム氏。それなら投げつけたらよくないか?』




 えっ? 投げつける?


「なあ、ブラックスライム。君を投げて攻撃してもいいか?」


「投げ……るぅ……?」


「ああ。魔物に向かって投げるからさっきの棘みたいなので倒して欲しいんだ」


「う~ん……それならいいよぉ…………」


「おっしゃ! ありがとうよ! これから投擲ブラックスライムで行くぜ!」


『神コメントキタァァァ!』

『金〇投げ来た~!』

『いや、黒だから』


 そろそろ立てるかな?


 ゆっくりと立ち上がってみると、少しふらつく足が目に見えて疲れが分かる。いまだに理由が分からない。


 歩き進んで遠くにダークラビットを見つけた。


「ブラックスライム……! 頼んだぞ!」


「あい……」


 右手に丁度収まるサイズのブラックスライムを、まだこちらに気付いていないダークラビットに向かってブラックスライムを投げつけた。


 飛んでいったブラックスライムがダークラビットに当たる直前、全身から無数の棘が現れてウニみたいな姿になった。


 そのままダークラビットに直撃すると、いつも元気そうに動くダークラビットが一撃で倒れた。


「よっしゃ~!」


『~URは遠距離武器だった件。~』

『黒玉つえぇぇぇ!』

『ウニ爆弾だな!』


 それからブラックスライムを投げつけてダークラビットを倒した。


 最後の百体目のダークラビットを倒して百個目の魔石のドロップを確認した。


「な、なあ……ブラックスライム」


「うん……」


「せめてさ……普段は動かなくてもいいから、投げられたら俺のところまで戻って来てくれないか?」


「や……動きたく……ないよぉ…………」


「はあ……」


 大きな溜息を吐くと、コメントで『振られた男みたいだな~w』『ざまぁ~w』と流れる。


 確かに振られた男みたいだな。言い得て妙だ。


 魔石よりも先に地面に落ちたブラックスライムを拾って頭の上に乗せる。ブラックスライム曰く、地面に落ちてもゴミは一切付着させないから綺麗らしい。


 百個目の魔石を入れて今日のガチャを回す。


 空中でガチャ筐体が現れて、ハンドルが回って中から白い・・カプセルが落ちてきた。


『白キタァァァァ!』

『また当たり来たああああ!』

『二連続当たり来たああああ!』

『一年間の努力がここで実るのか……素晴らしい!』

『今日も応援はなしだな』


 おい最後!


 カプセルが開いて、目の前には――――空中に浮かんだU字枕・・・が現れた。虹色の光の粒子がキラキラと光っててものすごく神々しい。


「白色ってことは、レアだな。Rも初めてだが、一応1%だから当たりの中のハズレだな。それに枕だしな」


『ああ。1%だから一応ハズレか。それなら応援してやってもいいな』

『そもそも何の枕?』


 手に取る前に、枕の前に画面が現れる。


《U字安眠枕:この枕で寝ると絶大安眠効果をもたらす。一回使うと消える》


「安眠枕らしい。俺は寝つきが悪くないからな。いらないか~一回しか使えないけど絶大安眠効果・・・・・・らしい」


『ハズレだなww乙~!』

『今日もハズレ来たああああ!』

『ハズレに戻っておめでとう~』


 ちらっと見たカメラの画面に《視聴者数:192》と書かれていて、一瞬心臓がきゅっと締まるくらい驚いてしまった。


「ええええ!? リスナーが爆上がりしている!?」


『おお~めちゃ増えてるな。おめでとうエム氏』

『やるやん。ハズレ引いたし、今日も面白かったから応援しておくぜ』


 そのあと、配信が終わって《応援:101》という数字を見て、両手を震わせた。






 だがしかし、これはまだ始まったばかりだった。まさか……このあと、ブラックスライムと枕のせい・・であんな風になっていくとは、俺は思いもしなかった。

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