【WEB版】底辺探索者は最強ブラックスライムで配信がバズりました! ~ガチャスキルで当てたのは怠惰な人気者~

御峰。

第1話 底辺配信探索者

《規定の魔石ポイントを確認しました。現在【ガチャ】を1回、使用できます》


 俺の前に現れた透明な画面。


 すぐ下に

《1連を回す:100ポイント》

《10+1連を回す:1,000ポイント》

《100+20連を回す:10,000ポイント》

と大きなボタンが光り輝いている。


 そして、すぐに俺の周りを不思議な黒い文字が右から左に流れる。


『キタァァァァァ!』

『回せ回せ~!』

『今日はどんなハズレを引くのか待ってました~!』


 俺を煽るかのようなコメントと共に、チラッと上を見るとコウモリっぽい作りになっているドローンが静かに飛びながら俺を撮影・・している。


 これは今の時代にブームになっている【コネクト~貴方の活動を世界に配信する~】である。


 世界にダンジョンが生まれてから世界は大きく変わり、ダンジョンに潜る人々を【探索者】と呼ぶようになった。


 その中でも探索中に配信をする人を【配信探索者】と呼んでいる。探索者全員が配信をしているわけではなく、大半の人は配信を嫌っている。


 ではどうして俺は配信をするのか。その理由はたった一つ――――――お金のためだ。


「う、うるせぇー! 言われなくても回してやるからよ!」


 心にもない煽り文句でコメント・・・・に返事をする。


 彼らは俺の配信をリアルタイムで見ている通称【視聴者リスナー】だ。


『はよう回せよー!』

『このために二時間もつまらない配信見たんだぞ!』


 と煽りコメントが追い打ちをかける中、


『今日は良い物が当たりますように』


 という優しいコメントも流れる。


 まあ、俺の一番の目的は配信で人気を出すことではなく、いま目の前に広がっているガチャ画面でガチャを回すためだ。


 少し緊張しながら、目の前の《1連を回す》のボタンに人差し指を触れた。


 ピコーンという効果音が周囲に響いて、俺の正面にそれはれっきとしたガチャ筐体が空中から現れる。これはただの演出だから触れなかったりする。


 すぐにコメントでは『ハズレこい~!』と大量の弾幕・・が流れる。


 ガチャ筐体のハンドルがガラッガラッと音を鳴らして時計回りに回り始めると、ハンドル下部にある口からまん丸いガチャカプセルが一つ出てきた。


『黒いカプセルキタァァァァァ!』

『今日もハズレでした!』


「ちくしょおおおお! 今日もハズレだったあああああ!」


 俺は目の前に落ちた黒いカプセルの前で両手を地面に付けて絶望する。


 恐らく周囲に流れる弾幕では俺を哀れむコメントが大量に流れているはずだ。


 地面に落ちた拳サイズの黒いカプセルが勝手に半分に割れて、中から光が溢れる。そして、そこから現れたのは――――


『はあ!? 今日はハズレ中のハズレじゃん~!』

『いやいや、ある意味当たりだよ?』

『エムくんって童貞だったような?』

『いやいや、こんな底辺配信者に彼女がいるわけないでしょう』


 心の無いコメントが流れて視界を埋め尽くす。


 俺は震える手を伸ばして地面に落ちたソレ・・を拾い、ゆっくりと立ち上がった。


「ちくしょおおおおお! こんな使えないものが出てくるくらいなら野菜の一つでも出てこいよ!」


 地面に一枚のコンドームを叩きつけて大声で叫んだ。


 このガチャは圧倒的に外れる率が高い。その数字は何と【98.79%】。殆どは【ノーマル】が現れる。


 いつもなら缶ジュースとか、ご飯パックとかもっと実用性のあるモノが出るのに、今日は人生初のゴムが現れた。


 俺はもう十九歳になるけど、今のところ、これを使った経験はない。いや、使えないんじゃない。使わないのだ使わない。……………………誤解されないように言っておくと、使える場面にあったことはない。


 空に浮かんで俺を撮影しているカメラに向かって、指を指して大声で話す。


「お前ら! 人の不幸ばかり祈りやがって! 今日もちゃんとポイント入れてくれよな!」


『おkおk~お疲れ~明日も外れると祈っているぜ~』

『当たらないからって俺達にキレるなよ~童〇~』

『可哀想だからボタン押しておくぜ~』


 カメラの下に映っている画面には《現在視聴者数:97人》と《応援:8》と書かれている。


 そこから現在視聴者数がどんどん減っていき、代わりに応援がどんどん増える。やがて97に到達したので、今日も見てくれた全員が納得してくれたみたいだ。


《時間になりましたので、配信は終了となります。お疲れさまでした。コネクト運営より》


 と目の前に画面が現れて、配信の終わりを迎えた。




 ◆




 世界にダンジョンが現れてから九年。俺が丁度十歳になった年にダンジョンが現れると共に、世界の十歳の子供に【ギフト】が送られた。ただし、選ばれる人と選ばれなかった人がいる。


 ギフトを受け取れた人を、【ギフト持ち】と呼び、羨望の対象になる一方、貰えなかった人達からは睨まれたりする。


 それにギフトと言っても種類が様々で戦いに活かせるものもあれば、できないものも多い。俺の場合は典型的な後者だ。


 俺が授かったギフトの名前は【ガチャ】。


 ダンジョンで魔物を倒してドロップする魔石を注入することによってポイント化してガチャを回せる力だ。


 たったそれだけ。


 身体能力が強くなるわけでも、魔法が使えるわけでも、特別なアイテムが作れるわけでもなく、ただ魔石を換金してガチャを回せるだけだ。しかも今までN以外を引いた事がない。【98.79%】の壁は高い。



 俺がやって来たのは、とある病院だ。


「ただいま――――奈々なな


 ベッドに横たわっているのは俺の実妹のさかき奈々ななである。色白の肌と端麗な顔は兄である俺が見ても世界で一番可愛らしい。


 ただ、彼女はダンジョンが現れてから問題となっている意識不明となる病気を患っている。研究が進んで分かったのは、今でもちゃんと彼女は起きて・・・いることだけだ。


 今の俺の声が聞こえているはずで、体も入院十年目にしては健康体である。これは体がしっかり成長しているからだと先生が言っていた。


「今日も配信頑張って来たぞ~またNを引いてしまったがな…………いつかURウルトラレアを引いて奈々の病気を治せる薬を手にするから待っていてくれ」


 暫く妹との時間を堪能して病室を後にした。



りくくん。今日もお疲れ様」


「どうも」


 カウンターでは俺に優しく声を掛けてくれる看護師さんが笑顔で出迎えてくれた。


「今月の入院費払います」


 そう話しながら俺は一枚のカードを取り出す。


 実は妹が患っている病気は、世界でも問題になっているが未だ病気として認められないために、入院は全て自腹になっている。


 カード内の残高は十分に確保しているので、支払いを済ませてその場を後にした。看護師さんからは「頑張ってね」と声を掛けられる。


 ああ……言われなくても俺は妹を治すその日まで絶対に諦めない。




 ◆




 家に帰ってきて、最初にやるのは積み重なったパックご飯をレンジに入れて、味噌汁パックを開封してお湯に入れる。


 簡単に食事をしながらスマートフォンの端末を開く。


 タダで貰った機種なだけあって起動すら遅いし、充電しながらじゃないと使えない。


 すぐに【コネクト】の自分のページに飛ぶ。


 そこには《アカウント名:エム》《チャンネル名:底辺探索者のガチャ配信》《チャンネル登録者数:217名》と書かれている。


 《応援ポイント:97》をクリックすると、《換金しますか?⇒9,700円》と表示された。


 今日の配信で貰えた応援ポイントはこうして換金できるポイントとなる。


 応援ポイントは送る側が課金・・したポイントである。だから応援ポイントは別名【ぜん・ぜに】と呼ばれている。


 換金申し込みを終えて、今度は【ガチャ袋】から今日獲得した例のアイテムを取り出した。


 コンドーム…………こんなもの出されてもどう使えって言うのか。使いたい相手もいないのに、こんなもの出られてもな。


 俺がギフトでガチャを貰った時に一緒に貰えたスキル【ガチャ袋】は、ガチャで手に入ったアイテムを不思議な空間に収納できるスキルで、どれだけ重くて多い量のものを出されても異空間で持って帰れるし、何なら普段から入れておくことで非常食の代わりとかにしている。


 おかげでリュックが軽くて大助かりだ。魔石だってすぐにポイントに換金しているしな。


 ふと、届いた応援ポイントのところに《メッセージ:3件》と書かれているのが見えた。


 実は応援ポイントって課金して相手に贈れるから、一緒にメッセージも送れる。読むか読まないかは配信者が選べるが、俺は全部読んでいる。


《今日もハズレだったな~がははは!》


「これはいつも笑ってくれる人だな。いつもありがとうよ」


《変態……》


「いやいや! 俺のせいじゃねぇだろ!」


《いつも楽しく閲覧させていただいております。本日はとても残念な内容でしたが元気出してまた明日も頑張ってください。少ないですが応援ポイントを送っておきます》


「この丁寧な言葉はいつもの人だな。初期からずっと……ありがとうよ。本当に大助かりだよ」


 聞こえるはずはないけど、配信者となった俺のせめてものプライドとして、声に出して返事をする。もちろん直接コメントで返事とかは送らない。


 画面に感謝の意を表して手を合わせて、俺は眠りについた。

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