強盗犯からのぬいぐるみ

広之新

第1話 残されたぬいぐるみ

 私の手には小さなうさぎのぬいぐるみがある。これはある少女のものだ。このぬいぐるみは道路の端にぽつんと落ちていたのだ。私はそれをすぐに拾い、ついていた土をはたいて落とした。


「やっぱり美緒ちゃんのものだ・・・」


 私は辺りを見渡した。だが美緒ちゃんの姿はない。


「美緒ちゃん! 美緒ちゃん! どこ!」


 名前を呼びながら方々を探したが、やはり彼女は見つからなかった。私はため息をついて考えこんだ。後悔とともに・・・。


(私がいけなかった・・・もう少し美緒ちゃんのそばについていたら・・・)


 私が彼女に初めて出会ったのは昨日のことだった・・・。


      ―――――――――――――――――


 私の所属する捜査1課第3班は宝石強盗犯を追っていた。5日前の夜、ある宝石店に3人組の強盗が押し入った。バールのようなものでシャッターをこじ開け、防犯ブザーが鳴る中を手早く高価な宝石を奪って逃げた。

 手慣れたプロの犯行に思えたが、たった一つ、犯人はミスを犯した。指紋を残してしまったのだ。油断したのだろうか、宝石をすべて手に入れた後に割れたガラスで右手の手袋を破ってしまったようだ。それで右手をついたガラスケースに指紋が残ったのだ。

 この指紋から犯人の一人を割り出すのは簡単だった。その指紋には前があった。


「その指紋の主は山中光男、35歳。強盗の前科がある・・・・」


 捜査会議で倉田班長が報告書を読みあげた。犯人の一人の素性が明らかにされた。


「すぐに奴の身柄を押さえる必要がある。奴の立ち回りそうなところを当たるしかない。」


 倉田班長が捜査員に次々に仕事を割り振っていった。


「・・・藤田と日比野は奴の別れた妻を当たれ。まだ連絡を取っているかもしれない・・・」


 こうして私は藤田刑事と山中光男の別れた妻の元を訪れることになった。その妻は中山恵子、33歳。この近くのアパートに住んでいる。美緒ちゃんは山中の娘なのだ。

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