〜元! 両片想いのバカップル〜

絶対人生負け組

前編〜両片想いの出来事はいつも突然に〜

「はぁ……尊い……」


 あきらの友達の太一たいちが教室でスマホを見つめながら呟いた。

 もうその言葉を何回聞いたか思い出す気力も起きない。


「はぁ……またそれか」


 明は、うんざりと言った様子で左右に首を振る。


「だって、可愛いじゃん!」

「はいはい。わかったから」


 太一が何を話しているのか、それは付き合っている彼女の話だ。

 毎日のように、ヘタすれば1時間おきに太一の惚気話を聞かされる明はウンザリしていた。


 何故なら、明には彼女がいないからだ。

 別に欲しくないというわけではない。

 好きな人も、もちろんいる……。


(うわぁ……。なんで、太一はあんな可愛い彼女作れんだよ!! 俺も彼女も欲しいなぁ。でも日高さんに告るのはハードル高すぎる……)


 表面上は、彼女なんて別に要らない雰囲気を醸し出している明だが、本音は滅茶苦茶彼女が欲しいのだ。


 日高さんとは、日高ひだか 真由乃まゆの。明の好きな人である。


 日高真由乃はこの学校のマドンナ的存在で男子のほとんどが日高真由乃の事を好きだ。


 勇気をだして、日高真由乃に告白する者も勿論いるが、サッカー部のちょっとチャラい所謂陽キャラのイケメン男子も振られている。


 それを聞いて怖気付いた男子達は告白する者が少し減ったように思えた。

 だが、逆に真面目でイケメンな男子はチャンスなのでは?! と勝手に息巻いて告白するが、それもまた振られてしまった。



 だが、そんなに振られても懲りない奴らもいる。いや、むしろ振られてからの方がもっと好きになっている人の方が多いだろう。

 何故なら、日高さんの振り方は優し過ぎるからだ。



(ライバルが多すぎるし……こんなの無理ゲーじゃん。告って惨めな姿になるなら、この恋心は胸の内にしまっておこう)


 明は、まるで少女漫画の乙女みたいな事を胸中でぼやいてた。


 明が、諦めるのも納得いく。

 明は陽のキャラでは無いし、存在感が薄い。オマケに小さい頃から近視で眼鏡をずっと付けている。


 明は、こんな容姿の自分が日高さんの告白しても振られるだけだと考えている――が、数日後にあんな事が起きてまさかまさかの展開になるとは微塵も思っていなかった。

 そんな妄想も1度もした事が――いや、意外すぎて出来るはずも無かった。


















 ある日、明の身に起こる出来事の日。


 明は、また太一に惚気話を聞いてウンザリしていた。

 そして、また前のように日高真由乃に告白しても振られるなどの事を考えなが帰るため廊下に出る。


「きゃっ?!」

「うわぁっ?!」


 廊下に出た瞬間、明は誰かとぶつかって尻餅をついた。

 明は、運動なんてろくにしてなくて、体幹が弱いのだ。

 ぶつかった相手は何ともない様に立っていた。


「すみません」

「い、いえ! こちらこそ、ごめんなさいっ!」


 明が謝ると相手も謝ってきた。声から推測するに、女の子の声だ。


 どこかで聞いた事のあるような声だと思った明だが、今はそれどころじゃない。


(はぁ……。俺の体幹弱すぎでしょ。しかも眼鏡どっか吹っ飛んでったし……なんにも見えん)


 最近眼鏡のネジ緩んでたからか、ちょっとぶつかっただけで何処かに眼鏡が飛んでいってしまったようだ。


 明は、ため息をこぼして眼鏡を探し始める。


 すると、ぶつかった女の子が

「あ、あのー……探してるのってこれですか?」

 としゃがみこんで明と同じ目線になって言った。


(女の子が手にしている物を見るが、ぼやけて何か全く分からない……。輪郭的には眼鏡だとは思うけど……)


「えと、どれ?」


 明はそれを確かめるために顔を上げ、女の子の近くに寄った。


(っ?! だ、誰だろう。こんなイケメンな男の子……)


 ぶつかった相手の女の子は胸をドキドキさせながらそんな事を思っていた。


「あぁ、ありがとう」


 明はお礼を言って女の子の手から眼鏡を受け取ってかけると同時に、女の子が衝撃的な一言を放った。


「……好き。わ、私と付き合って下さいっ!!」



「……は、はい」



 明は、衝撃的な事実を前に思わず『はい』と返事をしてしまった。


 明が、眼鏡をかけるとそこに居たのはなんと学校のマドンナ的存在の――頬を赤く染め耳まで真っ赤な日高真由乃だった。


 そして、そんな彼女からのいきなりの告白。

 周りにいた人もギョッと目を見開いて呆然と立ち尽くしていた。


 そんな衝撃的な連続で明の頭は混乱して『はい』と返事をしてしまったのだ。


「そ、それじゃ。明くんっ! 校門で待ってるね!!」


 そして、日高真由乃はみんなの思考を置き去りにして逃げるようにこの場を去っていった。


(はっ?! えっ?! ちょっ?! あっ?!)


「「「「「えぇぇぇぇー!!!!」」」」」」



 近くにいた人も、明もやっと今起きた出来事に脳が追いついて驚きのあまり、叫んでいた。

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