第21話 ルウシェのメッセージ
ミロンは街の中心街の時計台の前でヒューゴを待っていた。しかし約束の時間を1時間過ぎても姿を現すことはなかった。心配になったミロンは探しに行こうとするが、住所や連絡先を聞いていなかったため手掛かりがない。
仕方なくバイト先の〈グレートケツプリ〉に出向いてヒューゴの情報を聞こうと思い、待ち合わせ場所を離れることに。
小走りでバイト先まで向かっていたが、角を曲がれば店に着くと言うところでミロンは背後から突然声を掛けられた。
「兄さん、お友達を探してるんだろ?」
「何だお前たちは? ヒューゴの居場所を知っているのか?」
「へへ……知ってるも何も」
男が後ろを振り向いて別の男に合図を送ると、頭から麻袋を被せられたボロボロの衣服の男が二人に担がれて連れて来られた。
「まさか……」
ミロンが思わず声を漏らすと、麻袋が乱雑に外された。
「ヒューゴ!」
そこには殴られた跡が生々しく残るヒューゴの姿が。両目は腫れ上がって塞がり、口元からはぼたぼたと血がしたたり落ちている。
「み……ミロン、すま……ない……待ち合わせを……すっぽかしてしまって……」
「そんなことはどうでもいい! 貴様ら、今すぐにヒューゴを解放し……ぐあっ」
ミロンは背後から電撃魔法を浴びてその場にうつ伏せに倒れ込んでしまう。下品な笑い声が微かに耳に届いた気がした。
*
カルト教団の本部。その地下牢ではミロンの呻き声が漏れていた。鉄製の椅子に座った状態で、両手は後ろに鋼鉄の鎖で縛られ、鉛の玉が付いた足かせがつけられている。
「うぅ……」
「もう一度聞くぜ。テメェらはコソコソと何を探ってやがる?」
「……お、俺たちは何もしていない……お前たちの勘違いじゃないのか」
「んだと!? テメェ、マジで死にてぇのか!」
激昂した信者の男は
「ぐ……ふぁ」
「口が利けるうちに吐いちまえよ。そうすれば楽になれるぜ」
信者の男は薄笑いを浮かべてミロンを見下ろす。体中が燃えるような痛みに包まれていて、すでに痛覚が麻痺しているようだった。
(あぁ、そう言えばルウシェと喧嘩したままだったな。アイツは無事だろうか。もう危ないことに首を突っ込むのはやめてくれるといいのだが。もしまた会えたら……今度はちゃんと……)
薄れゆく意識の中でミロンはルウシェのことを想った。思い浮かぶのは笑顔で語りかけてくる彼女の姿ばかり。
その時、別の信者が慌てた様子で部屋に飛び込んできた。男に何やら耳打ちすると、すぐに部屋を出ていく。男は笑いを堪えきれない様子でミロンに声を向けた。
「今とっておきの情報が入ってきたぜ。イカサマ士を名乗る魔女を火あぶりにて処刑するとの知らせがあった。残念だったなぁ。テメェが必死に庇ってたのに無駄なあがきだったって訳だ」
「な、何だと!? 外せ! 今すぐこの鎖を外せ! さもなくば殺すぞ貴様!」
ミロンは繋がれた鎖を外そうと必死でもがく。しかし、激しく身体をゆすってもがちゃがちゃと鎖が音を立てるだけでビクともしない。それでもミロンはもがき続けた。
「往生際の悪い野郎だな。いいか、そのイカサマ士はな、拷問の最中に処刑を免れるために虚言を吐いて教壇に寝返ろうとしたらしいぜ。元々一緒にいた仲間は無能で見捨てたとも言っていたらしい。まぁ結局嘘がばれて処刑になるみたいだがな」
「ククク……あははは!」
「何がおかしい? 気でも違ったか?」
「貴様こそ下手くそな嘘をつくな。アイツがそんなことを言うはずがない。あのイカサマ士は誰よりも真っすぐで清い心の持ち主なんだよ。貴様たちのような卑劣なクズと一緒にするな!」
「んだとテメェ! そんなに死にてぇなら今すぐ楽にしてやっからよぉ」
信者は壁に立てかけられていた鉄製のこん棒を手にすると、助走をつけてミロン目がけてフルスイング。
顔面に炸裂かと思われた瞬間、石材で固められた部屋の外壁を突き破って貫通魔法が信者の男に直撃。その威力に男は上半身が消滅し、残った下半身は力なく床に倒れた。
「パンパカパーン! おっ待たせしましたー!」
「メルル!」
外壁に空いた穴を通じてやってきたのはメルルだった。魔法でミロンの鎖を切断するとアイテムボックスから取り出した回復薬入りの水筒をニョキっと手を伸ばして差し出す。
「何とか間に合ったみたいですねぇ。ひとまず無事でよかったのです」
「あぁ、助かった。礼を言うぞ」
言うと、ミロンはごくごくと水筒の中身を飲み干した。
「礼には及ばないのです。これであの時の借りはチャラにしてもらいますよ」
「あの時って……お前をアイツが助けた時のことか?」
「あの時はミロンにもちょっとだけ助けられましたから。あ、でも今はそんなこと言っている場合じゃないですよ。これ、ルウシェからのメッセージなのです」
メルルはアイテムボックスからルウシェのメッセージをミロンに手渡す。
「読んでみてください」
「これは……」
「どうします? ルウシェはそこの男が言っていたように火あぶりに……」
「いや、俺はアイツを信じる! 行くぞ、メルル!」
「ラジャーなのです!」
ミロンはメルルと共に地下牢を飛び出して行った。
ルウシェからのメッセージ。そこに書かれた言葉を信じて。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます