第三章 光と闇
第16話 商魂都市ネズミコ
「ねぇガレフ。今のは?」
「〈
「わかった」
「……ルウシェ」
「なに?」
「お前は少々知恵が回り過ぎる。だから、敵を欺くことだって簡単にできてしまう」
「……しょうがないよ。生きていくためだもん」
「だが、そんなことを繰り返していてはお前の人生も不幸になってしまう。だから見つけるんだ。嘘をつかない誠実な男を」
「……そんな人いるのかな?」
「いるとも。世界のどこかに必ず、ね」
*
一行がやってきた都市は〈商魂都市ネズミコ〉。
昼過ぎに到着すると、駅前の大通りに面した公園広場の一角に場所を確保。ミロンに「キミは離れたところで見ていて」と伝えると、ルウシェとメルルはアイテムボックスから何やら取り出して準備を始める。
「パンパカパーン! おっめでとうございまーす!」
メルルの高い声は良く通る。その横ではルウシェが複数のボトルを宙に飛ばして代わるがわる掴んではまた宙に投げている。ミロンは少し離れた木陰に腰を下ろし、その様子を見てつぶやく。
「あの二人は一体、何をやってるのだろうか?」
ルウシェとメルルは大道芸を披露していた。ルウシェの華麗なボトルジャグリング。曲芸パフォーマンスを行いながらオリジナルのカクテルを作る、フレアバーテンディングと呼ばれるスタイル。
「よっ! ほっ! はいっ!」
背面キャッチ、膝の裏、そしておでこでボトルを受け止めると、横から「おっめでとうございまーす!」の声がタイミングよく入る。
「さぁ、次はこれだー! みんな危ないから下がっててねー」
口にウォッカを含むと同時にメルルが火魔法で前に火の玉を発生させる。ルウシェが霧状にウォッカを吐き出すと【ボッ】と音を立て、まるで口から炎を吐き出したように見えた。
「ただいま投げ銭受付中! こっちらにどうぞー」
メルルがシルクハットを逆さまにして持ち、宙を飛び回り客にアピール。ハットには次々と投げ銭が放り込まれて大盛況のうちに大道芸は幕を閉じた。
*
「おぉ結構いったね。これだけあれば2~3日は過ごせそうだよ」
ルウシェとメルルはしたり顔で見合っている。
「何だったんだ、さっきのは?」
「路上パフォーマンスだよ。ここに来るまでの間、メルルと打ち合わせした甲斐があったね」
「ですですー! ミロンも見てるだけじゃなくて稼いできてくださいよ。相変わらず無駄にイケメンの役立たずですねぇ」
「見てろって言ったのはそっちじゃないか……あと悪口やめろ!」
3人は公園で後片付けをしていたが、ほとんど荷物をまとめ終えたところでミロンがそろりと手を挙げた。
「あのぉ」
「ん、何だい?」
「いや、アンタが寄り道しないと旅がピンチだって言うからこの街に来たと思うのだが、公園で遊んでいる場合じゃないと思ってな。俺が一刻も早くレゼル王国に戻りたいってのは知ってるだろ」
「……キミは正気かい?」
「何が?」
「ウチらはもうお金が無いんだよー! キミは全然稼げないし、アタシはギャンブルですっからかん!」
「それはほとんどアンタのせいじゃないのか?」
「アタシのお金はアタシのもの! 夫婦なんだから当然でしょ!」
「いつの間に夫婦になったッ!?」
「ダメな夫が全然稼げないから、アタシがこうやって体で稼いでいるんじゃないかー」
「……頼むから誤解を生むようなことを言うのはやめてくれ」
商魂都市ネズミコはミゲルガルド王国の東に位置する山脈に囲まれた盆地にあった。昔から商売が盛んな土地柄で、国の中でもいち早く金融のインフラ整備が整えられたのがこの都市である。
駅前は背の高いビルと派手な看板に囲まれていて、大通りには朝から行商が往来するのが日常だ。あちこちで市場も開かれている。また、飲食店の多さも国内有数でグルメの街としても知られており、街全体から活気が溢れているような場所だった。
「俺はどうもこの街が好きになれないのだが」
「そんなこと言ってる場合じゃないよ。キミにもこの
「はぁ? 一言も聞いてないぞ」
「じゃあ、
「誰がクズ旦那だ! そこまで言われたら仕方がない。俺だって稼げるってところを見せてやる!」
「ほぅ。王室育ちのボンボンのキミにできるのかい?」
「バカにするな、本気を出せば楽勝だ」
「わかった。じゃあアタシがキミのバイト先を探しておいてあげるね」
「え? あぁ悪いな」
「別にいいって。じゃあアタシたちは街の様子を見てくるから、キミは今夜の宿を探しておいてくれるかな」
「あぁ、任せておけ」
ミロンとルウシェは公園を出たところで一旦別行動を取ることに。ミロンはルウシェの言いつけを守って律義に宿を探して回る。比較的物価の高いこの街にしては破格とも言える安宿を見つけることができたミロンは意気揚々と待ち合わせのギルド酒場へと向かった。
酒場ではすでにルウシェが盛大に酒盛りをしていた。メルルは皿の上に山盛りになったピーマン、セロリ、パクチーのサラダを目の色を変えてがっつきまくっている。
「おい、こんなに色々頼んで大丈夫なのか? あんなにお金がないって騒いでいたのに」
「ごきゅごきゅ……んあ? あぁキミか。大丈夫だよ。あのあとメルルと2公演を追加でブチかましてきたから」
「アンタには計画性ってものがないのか!?」
「アタシは宵越しの銭は持たない主義!」
「江戸っ子か!」
「まぁまぁ、細かいことはいいからキミも座りなよ」
「……絶対パーティ組む相手を間違えた」
しぶしぶ着席し、最初の頃こそブーブーと文句を言っていたが、酒が入るにつれて気分良くなっていくミロン。メルルはお腹が膨れて椅子の上で仰向けに寝転んでいた。
「あ、そう言えばキミのバイト先見つけておいたよ」
「本当か?」
「うん、早速明日から来てほしいって。はいこれ。お店の地図が載っているフライヤー」
「おぉ……ん? 何か変わった店の名だな」
「店の名前なんてどうでもいいじゃん。キミの話をしたら日給弾んでくれるって言ってたし。頑張ってね」
「おぉ。任せろ!」
こうして都市到着の初日は和やかに過ぎていった。
まさにそれは嵐の前の静けさであることにはまだ誰も気づいていない。
★作者のひとり言
いよいよ、第一部完結編です。
ご感想や気づいたことなど、コメントもお待ちしていますー!
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