転生したらウサギのぬいぐるみだった。

土田一八

第1話白兎、ぬいぐるみに転生。

 スパァァ!


 俺はスサノオと戦って真っ二つにされた。


 …。


 ………。


 ………。


 それから幾年月。なのかどうかはわからないが、ある時俺は目覚めた。斬り倒された筈なのに…。

 そして、俺な傍らには金髪のカワイイ女の子がスヤスヤと眠っていた。俺の知らない世界に来てしまった様だ。明らかにイナバの国ではない。夜の為か家の中は真っ暗でかなり寒い。では、ちょっと散歩でもしようか…。

「……」

 そしてもう一つ重要な事が。


 動けない。


 意識があるのに動けないのだ。手足はおろか口も目すらも動かせないとは。スサノオめ、俺を斬っただけでは安心できないとでも言うのか。



 やがて外が明るくなって来た。どうやら朝になった様だ。俺は結局一睡もできなかった。

 少女が目を覚ましたのはそれからだいぶ経っていた。


「アリスーっ。おきなさーい!」


 若い女の声がする。多分この子の母親だろう。何度か呼ばれて少女は目をこすりながらむっくりと起きた。

 そして、俺に気づく。

「わあ♡」

 目覚めたばかりだというのに寝ぼけ眼はすっかり消えてキラキラの瞳が現れていた。澄んだ青い瞳の金髪少女は満面の笑みを浮かべて俺をギュっと抱き締めて頬ずりをする。そしてほおにキスして走って出て行ってしまった。


「サンタさんがウサギのぬいぐるみのぬいぐるみをくれたー‼」


 でっかい声ではしゃいでいる。


 ん?ウサギのぬいぐるみだと…?


「………」


 チョットマテ。


 通りで動かない訳だ。これはいったいどうしたものか…。


 暫くすると金髪少女が戻って来た。と思ったら単に服を着替えただけだった。


 はぁ。


 俺は溜息をついた



 少女が戻って来たのは大分時が経ってからだった。少女はにっこにこの笑顔で俺の頭をナデナデする。よほど気に入った様だ。それから抱きかかえられて家の外に連れて行かれた。見た事の無い家の造りだな。それが第一印象だった。雪で白一色なのは同じだったが。

「アリス。寒いから家の中に入りなさい」

「はーい」

 また家の中に入った。


 今度は家の中でおままごとだ。場所や物が違ってもやっている事は同じだなぁ。少女はビスケットをウサギのぬいぐるみの口に近づける。

「はい。あーん♡」

 その時アリスは気が付いた。

「あっ!名前付けるの忘れてたぁ」

 そう言って少女は考え始める。ビスケットを皿に戻す。

「何がいいかなぁ?」

 腕を組んでアリスは考え込む。が、中々しっくりいく候補が思いつかない。

「うーん…」

 アリスは難しい表情で一生懸命考えている。が、それでも思いつかない。アリスはぬいぐるみを観察する。

「真っ白なウサギでお目目が赤くて…赤いリボンが付いているから女の子だぁ」

(俺ってメスなのかよ……)

 俺は心の中でツッコむ。そういえば、声が変わったような気がする。

「えーと、えーと……」

 むっ、そこまで出かかっている様だ。

「あなたのお名前は、リア!リアだよ。エヘヘ。私はアリス。よろしくねぇ」

 アリスは楽しそうに名付けて自己紹介をする。俺を抱き寄せて後頭部を撫で回す。こうして俺の名はリアに決まった。

「あ、そうだ。まず、お水をあげよう」

 おままごとはまだ続いていた様だ。アリスは小さなおもちゃのカップに水差しから水を入れて俺の口にあてがう。クイとカップを傾けると中の水が僅かに口に染み込む。

(おっ、水だ)

 そう思った瞬間、俺の中で何かが変化し始める。

「次は…ビスケットぉ!」

 アリスは無邪気にビスケットを俺の口に当てる。

 もぐ。

 俺の口が動き、ビスケットを齧りよく噛み、飲み込む。

(ふー。甘くてうまいぜ。ちょっと歯にくっつくなぁ)

「あれ?齧られてる?」

 アリスはビスケットを見て不思議がる。

「ま、いっか」

 アリスはそのビスケットを自分の口に入れて食べてしまった。


 それからも、暫くおままごとが続き、俺は僅かながら水分と食物を摂取する事ができた。そして、食事の席にも俺を連れて行き、アリスはそこでもおままごとの延長をやる。その度に水分や食物を摂取する。確実に俺の中で変化が起き続けていた。夜はアリスと一緒に布団の中で眠る。前夜と異なって温かい。


 こうした事が雪が消えるまで続いた。



 春になり温かみを感じる季節になった。白一色の世界は緑が見え始め、所々白や黄色の花が見える。アリスは俺を外に連れ出して薬草を摘みに森の中にいた。春先は開放的な気分になり易いが、植物の芽吹きだけでなく動物も冬眠から起き出す。俺はあんまり浮かれてはいられなかった。俺はようやくぬいぐるみの大きさなら動けるようになっていたが、力が出せるかどうかは分からなかった。ま、ともかくおままごとの水と食物のおかげである。取り敢えず魔物とか熊とか狼などに出会わなければいいのだ。


「………」


 どうしてこうなる。


 アリスと俺はよりによって魔物に出会ってしまった。なんだが熊みたいな魔物だなぁ。アリスは一生懸命走って逃げる。逃げる。逃げる。


 が。


 どた。


 アリスは木の根っこに躓いて地面に顔から突っ込んでしまった。俺はその拍子に投げ出されてしまった。イテ。


 グルルルル~。


 魔物が低い唸り声を発しながらアリスに近づく。万事休す。


 その時、俺の体の中で何かが弾けた。


 むっ、これは⁉


 俺は昔の大きさになっていた。ぬいぐるみではない。本物の肉体だ。そこで、魔物は俺の存在に気が付いた。

「リ、リア?」

 アリスもでっかくなった俺の姿に気が付いた。

「アリス。ここは俺に任せておけ!」

 俺はそう言うとすぐさま間合いを詰めて魔物を右前脚で思いっ切りぶん殴る。魔物はぶっ飛ばされて後ろの大木に叩きつけられて呆気なく絶命した。

「フン。こんなもんか?」

 それにしても運の悪い奴だったな。

「リア。ありがとう」

 アリスがでっかくなった俺に抱きつく。

 よしよし。

 俺はアリスの頭を優しく撫でてやる。


 ギュルルル…。


 俺の腹の虫が鳴ると、俺はぬいぐるみの大きさに戻ってしまった。


「エヘヘ。やっぱりこの大きさの方がカワイイ♡」

「えっ?でっかくてもかわいいだろう?」

「えーっ?」

 アリスは笑って否定する。

「ひでぇ」

 アリスはクスクス笑う。

「それより腹減った」

「うん。家に帰ってご飯食べよう」

「なあ、あの魔物は食えるのか?」

「おとーさんに聞いてみる」


 アリスから話を聞かされたアリスのご両親は大層驚いていたが、魔物はブラックマジックベアーというらしく肉だけでなく毛皮なども高値で取引される高級品との事だった。



 それから魔獣として完全復活した俺はアリスと主従関係を結び、アリスの従魔となって現在に至る。


                                  おわり

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転生したらウサギのぬいぐるみだった。 土田一八 @FR35

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