無能もふもふとしてパーティーから追放された鮫のぬいぐるみが聖女に溺愛されるまで
帝国妖異対策局
鮫のぬいぐるみ
人間たちが眠っている丑三つ時。
人形やぬいぐるみがこっそりと動くことができる時間帯。
「お前のような無能はうちのパーティーにはいらねぇんだよ! さっさと出て行け!」
パーティーリーダーであるクマのぬいぐるみが俺に向って宣言する。その片腕に抱かれているのは、俺と一緒にこの高梨家に連れられてきた白くて丸い人気ネコのぬいぐるみだ。
「そうよ! あなたなんかさっさと燃えるごみの日に生ごみと一緒に捨てられちゃえばいいんだわ!」
俺は幼馴染のあまりにも酷い言い草に、ただただ呆然としていた。
「おまえはぬいぐるみとしては異端なんだよ!」
「お前のような奴が聖女様に相手にされるわけがないだろうが!」
「そうだそうだ! ぬぐるみっていうのは片腕に収まってなでなでされることこそ存在理由」
「だいたい、お前は哺乳類でさえないだろが! サメ肌野郎がぁぁぁ!」
他のぬいぐるみたちも、クマのぬいぐるみと同じように俺に対して悪意をぶつけてきた。
こうして――
俺の額には「ゴミです捨ててください」という紙が貼られ、部屋の外に追放された。丑三つ時が終わるギリギリのタイミングで放り出されたため、もう動くことはできない。このままでは翌朝ママさんが俺を発見し、燃えるごみの日までベランダに放置するだろう。
「畜生! 俺がサメだからか! サメのぬいぐるみだからかぁぁぁぁ!」
俺は天井に向って叫んだ。
たしかに、俺は聖女様にそれほど愛されてはいなかった。沢山のぬいぐるみが彼女に抱っこされて一緒に眠る中、サメな俺はこの長くて大きな身体を上手に利用されて、小さなぬいぐるみ達を飾る台座みたいな扱いだったさ。
だけど! それでも! 一生懸命に俺は台座を務めていたんだよ!
それが……無能扱いされた上に、燃えるゴミだと……。
絶望する俺の目の前に突然、天上から輝く天使が舞い降りてきた。
天使にしてはでっぷりとして不健康そうではあるが、その服にはマジックで「てんし」と書かれているから天使で間違いないだろう。
「デュフフフ、全て見ておったでござるよ……サメどの」
キモヲタと名乗る天使様は、日課である幼女の寝顔観察のために高梨家に訪れていたとき、たまたま俺が追放されるまでの一部始終を見ていたということだった。
「このキモヲタ、サメどののためにひと肌脱がせていただくでござるよ!」
「この額に貼られた紙を取ってくれるのですか!?」
「残念ながら、天使のこの身では、この世界の物に触れることは叶わぬのでござるよ。デュフコポー。イエス、ロリータ、ノータッチの精神ですな。ヌカプフォー」
「で、では、どうやって俺を助けてくれると言うんですか!」
キモヲタ天使はニッコリと微笑みながら天井へと消えて行った。
「任せるでござるよー」
と言う言葉を残して。
翌朝、ママさんに発見された俺はベランダに放置された。
「あぁ、このまま俺は生ごみと一緒にゴミ袋に入れられてしまうんだろうか。まさか、大きいから切り刻まれたりするのかな」
そんなことを考えながら絶望に浸っていた俺の耳に奇跡の言葉が聞こえてきたのは、その日の夕方だった。
「ママー! お兄ちゃんが遊んでくれないー!」
「こら! 妹の面倒を見るって約束したばかりでしょ!」
聖女様とママの声だ。そして奇跡は聖女様の兄君からもたらされた。
「ちぇ、わかったよ!」
不貞腐れたような兄君の声。
「じゃぁ、一緒に映画見るか? サメネードって言う面白いサメの映画があるんだよ! 何だか急に観たくなった!」
なんだと! 俺の耳……はないけど、あったら動いてた。
「お兄ちゃんと一緒にえいがみる―!」
こうして奇跡はもたらされたのだった。
その日の夜、映画を見た聖女様は、
「ママー! わたしのサメのぬいぐるみ知らない? いなくなっちゃったの!」
「あぁ、大きなサメのやつ? それならベランダに置いてるわよ。捨てるんじゃなかったの?」
「捨てたりしないよ! 大好きなサメさんのぬいぐるみだもん!」
こうして俺は聖女様のベッドに迎え入れられることになった。
それ以降、俺は毎晩のように聖女様に抱かれる夜を過ごすようになる。
時折、お昼寝の時に聖女様は俺の口の中に頭を入れて眠られることもある。
今ではクマのぬいぐるみや白くて丸い猫のぬいぐるみ、あの夜、俺を嘲笑った連中は押し入れの中にしまわれている。
そして――
俺が追放された事件があった日から、何日、何年経ったろうか。
その後に成長され、ぬいぐるみ趣味から卒業された聖女様は今でも、
「んー、やっぱりサメくんが一緒じゃないと眠れないのよねー」
俺を強く抱きしめながら眠っている。
~ おしまい ~
無能もふもふとしてパーティーから追放された鮫のぬいぐるみが聖女に溺愛されるまで 帝国妖異対策局 @teikokuyouitaisakukyoku
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