衣替えの季節のはなし。

かなたろー

衣替えの季節のはなし。

 妻は物持ちが良い。


 どれくらい物持ちが良いかと言うと、若い頃に自分の誕生日プレゼントとして購入したジャンポーツ・ゴルチェの財布をいまだに愛用し、キティちゃんがあしらわれた小さな爪切りを小学生の頃からずっと使い続けているくらいだ。


 そんな物持ちがよい妻のお気に入りアイテムの数々の中で最も古いのが、手のひらサイズの小さなモンチッチ人形だ。


 昭和の時代に大ブームとなったおしゃぶりをするサルのぬいぐるみが妻の家に訪れたのは、妻のが生まれてほどなくのこと。誕生祝いとしてらしい。

 それからもうウン10年もの間、妻はモンチッチと共に生活を続けている。


 我が家のモンチッチはたいへんな『衣装持ち』だ。


 モンチッチの服の数々はすべて妻の母のお手製だ。

 内職で裁縫の仕事をしていた妻の母は、ヒマさえあれば内職で出た端切れを上手にやりくりをして、せっせと小さなモンチッチの服装を作っていたらしい。


 妻の母が作った昭和レトロなその服は、どれも大変にセンスが良い。令和的に申し上げれば『めっちゃエモい』である。


 そろそろ桜の季節。衣替えの季節だ。


 我が家のモンチッチも、もこもことした水色の毛糸のセーターを脱ぎ去って、春物に衣替えをしないと。


 今年の春はどうしよう?


 モンチッチの着る服選びは家族会議で行われる。参加者は全部で3名。私の妻、そしてハッサクという男らしい名前のフレンチブルドッグの女の子だ。


 ギンガムチェックのワンピース? はたまた象のアップリケがついた吊りズボン? どの衣装も大変可愛らしく、とても悩ましい。


 結局、今年は白地の首と袖周りに小さな花柄があしらわれたブラウスに、タータンチェックのキュロットスカートで活発なお嬢さんスタイルに落ち着いた。

 ハッサクが仕切りに匂いを嗅いでいたのが決定だとなった。


 妻はモンチッチを春コーデにお着替えさせると、指定席の義母の遺影の前におすわりをさせた。

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衣替えの季節のはなし。 かなたろー @kanataro_

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