赤いうさぎ
広川朔二
赤いうさぎ
「何度言えばわかるんだ」
「まったく誰に似たのかしらね」
「こんなことも出来ないのか」
「あんたなんか産むんじゃなかった」
「うるさい、騒ぐな」
頭の中をぐるぐると両親の言葉が巡る。その全ては僕を罵倒する言葉だ。父と母について覚えているのは、ピリピリとして僕のことを監視するように見ていたことと大きな怒鳴り声。暴力を振るわれることはなかったが皿やおもちゃなど物をよく壊す親だった。
いつからか僕は主張することを止め、両親の怒りの矛先が自分に向かないようにするためだけを考えて生きるようになった。常に何かに怯えているような子供。そんな子供に友達ができることはなく家でも学校でも僕はずっと独りぼっちだった。
これは僕にかけられた家族という呪い。
僕が心を許せるのは小さい頃からずっと一緒の白いウサギのぬいぐるみ。いつかこの呪いから解放されることを夢見ていつも抱きしめていたぬいぐるみは僕の手垢や涙ですっかりと黒ずんでいる。
高まる胸の鼓動を抑える為にぬいぐるみを抱く。
いつもとは違う匂いがする。
ああ、そうか。これの所為か。
僕が抱いた所為で汚れてしまったぬいぐるみ。
「キレイにしなきゃ」
ぬいぐるみを洗濯機に入れる。ふと洗面所の鏡が目に入る。
「そっか、僕の汚れも落とさなきゃ」
着ていた服を洗濯機に入れてシャワーを浴びると随分とさっぱりした。
これからは新しい生活が始まる。ようやく両親と離れることが出来たのだ。
「どこから掃除しようかな」
そんなこと独り言を呟きながら、洗剤を入れて洗濯機のボタンを押す。
僕しかいないこの家で洗濯機の音がやけに大きく響く。洗濯機を覗くと中では僕の服とぬいぐるみがぐるぐると回っている。ぐるぐると。
家中についた赤い汚れとリビングにある大きなゴミ。それの処理方法を考えつつ、人生の中で最も軽い足取りで住み慣れた家の掃除を始めた。
僕は今日から生まれ変わるのだ。
赤いうさぎ 広川朔二 @sakuji_h
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