オムライス

青海老ハルヤ

第1話

 男たちはある任務を遂行するため、月に降り立った。人類を救う重要な任務である。そのためにある人物の協力を借りる必要があったのだ。

 ぽつんと建っている家のインターホンを押すと、ドアが自動で開いた。男たちが中に入ると、初老の男性が椅子に座ったまま向かい入れた。

「随分と辺鄙なところにお住いですね、エス博士。おかげでナビが動かず大変でしたよ」

「なに、せいぜい月の端だろう。その程度で遠いとは言わんよ」

 エス博士は目をギラギラさせながら言った。途端に男たちはペコペコとお辞儀する。

「今日は、あることで工学博士の権威であるエス博士に助けてもらいたくてきました」

「地球のヤツらはだらしないのお。どれ、全てを極めた言ってみなさい」

 エス博士が今度は机にあるスイッチを押すと、人数分の紅茶が出てきた。美しい香りに男たちはウットリと目を閉じる。

「博士、この紅茶はなんの葉っぱから作ったのですか」

「コオロギじゃ」

「コオロギ!?」

 男たちは一斉に紅茶を確認した。しかしどう考えてもその紅茶はいい香りだった。

「コオロギ、ってあのコオロギですか?」

「ああ、インド原産のコオロギの葉じゃ。それをAIに再現してもらってな」

 男たちは一斉に首を傾げた。しかし、そんなことに時間を使っている暇はなかった。男たちは人類を救わねばならないのである。

「本題です。お願いします。博士が持つ食料生成機をお貸しください。地球では今食糧危機になっており、多くの者が餓死と戦争で死んでいます」

「うーむ。仕方がない。いいじゃろう。全く地球の奴らは同じ人類として不甲斐ないのお」

 家の奥に進むと、音を立てる大きな機械が置いてあった。エス博士がボタンを押すと、その音がいっそう大きくなる。

「これだ。岩の中にある炭素原子やその他様々な原子をぶつけ合い、目的に合った原子を作り出し、形作る。まさに人類の夢の機械じゃ。食料以外にもなんでも作れるが、月じゃそれくらいしか使い道がないからの」

「ありがとうございます!早速試してみてもよろしいでしょうか?」

「そうじゃのお」

 エス博士が何やらゴトゴトと動かすと、すぐにポンっと言う音がして何かが飛び出してきた。エス博士はそれを皿に出して言った。

「オムライスじゃ。食え。美味いぞ」

 男たちは再び首を傾げた。

「これはオムレツではないのですか?」

「何を言うとる。わしの言うことが聞けないのか」

「いえ、そんなことは」

「これはオムライスじゃ」

 エス博士が凄んで言うと、男たちはペコペコして言った。

「申し訳ありませんでした。それはオムライスというのですね」

「ああ、地球のヤツらは本当に遅れとるな。ワシが40年も前に本で読んだことだと言うのに、本当に遅れとる」

「仰る通りです。それでは、この機械を持ち帰らせて頂いてもいいでしょうか?」

「ああ、これはオムライスだということを世界中に広めておけ」

 男たちは宇宙船に機会を乗せて月を出発した。しかし、どうも腑に落ちない。

「あれは、オムレツだよなぁ」

「いや、オムライスさ。エス博士が言うんだ。間違いない」

「でもあれはオムレツだと思うんだがなぁ、まあエス博士が言うのだからオムライスなのかな」

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オムライス 青海老ハルヤ @ebichiri99

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