ふわふわテディベアのひみつ【KAC20232参加作品】

うり北 うりこ

ふわふわテディベアのひみつ


 可愛い可愛いテディベア。娘の出産祝いにと義理のお兄さんがプレゼントしてくれた。なんでも、欧米では赤ちゃんが生まれると初めての友達としてテディベアを贈る習慣があるのだそう。

 出産祝いを贈るのははじめてだから何が良いか悩んだ末に買ってくれたと聞き、娘の目に映りやすいベビーベッドの隣、テディベアから部屋が一望できそうな飾り棚へと置いた。小さいうちは毛のあるテディベアをしゃぶるといけないので、大きくなったら娘の友達として渡そうと。


 あれから2年。2歳になった娘へと茶色のふわふわのテディベアを手渡せば、嬉しそうに抱きしめた。それからは、眠る時もお出掛けする時もテディベアはいつも娘の隣にいた。


「ふふっ。くまちゃんのこと、本当に大好きなのね」

「うん! だーいすきっ!!」


 今日のテディベアのお仕事はおままごとの赤ちゃん役らしい。プラスチックのにんじんを口に押し付けられている。


「ママー。くまちゃんとおふろはいりたい!」

「くまちゃんはね、濡れたらしばらく一緒に眠れなくなっちゃうよ」

「えー! やだぁ!!」


 イヤイヤ期の娘が床に転がりバタバタと暴れる姿にため息が溢れた。

 こうなると娘は長い。いっそのこと一緒に入って、乾燥機に入れるべきか。でも、乾燥機にぬいぐるみって入れてもいいの? とりあえず洗濯表示がないか確認をしたが、そんな親切なものはついていなかった。

 万が一ダメになった時のダメージを考えて、その日はいざという時のために買っておいたお風呂用のオモチャで機嫌を取った。



 それから数週間後、高校時代の友人が遊びに来てくれた。


「久しぶりー! 元気だった? 少し痩せたんじゃない?」


 なんて言う友人のお腹は膨らんでいた。


「もしかして!」

「へへー。来月予定日なんだ」

「おめでとう! 身重みおもなのに大変だったでしょ? ごめんね、来てもらっちゃって」

「いいって。私が行くって言ったんだし!」


 カフェインレスの飲み物が麦茶しかなかったので、麦茶を出せば「さすがー!」と嬉しそうに笑われた。


「ねぇねぇ、あのテディベアってベビーモニター付きのやつでしょ? 映りはどう? ベビーモニター買いたいんだけど悩んでてさー」


 ベビーモニター? 待って、あれはただのテディベアで……。


「これでしょ? 暗視モーションにビデオ機能もあるしいし、いいよねー」


 そう言いながら見せてくれたスマホには、娘のテディベアと同じ可愛いテディベアがいる。


「私、知らない……」

「えっ! でも、ベビーモニターとして買ったんだよね?」

「お義兄さんに出産祝いのもらったの」

「……あっ、でもWi-Fiに接続させてなければただのテディベアだよ? 流石に、Wi-Fiは知らないでしょ?」


 ……知ってる。何回も遊びに来てくれているから、Wi-Fiを知りたいと言われて教えてしまった。


「嘘でしょ……。でも、まさかそんなこと……」


 テディベアは、今も娘と遊んいる。小さな椅子に座り、プラスチックのハンバーガーを口元に押し付けられている。


 ふわふわの可愛い可愛いテディベア。娘のはじめてのお友達。お気に入りで、毎日一緒に眠って、どこに行くのにも一緒。


 

 けれど、それは──。



「綺麗な嫁さんに可愛い娘、羨ましいなぁ。俺にも幸せをわけてくれよ!」


 出産祝いを持ってきてくれたお義兄さんの言葉と、笑顔なのに仄暗さを宿した瞳が頭を過った。



 ──終──







 


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