テディベア0777

羊蔵

テディベア0777


「七七七はいないそうだ」

 絵本コーナーにテディベアを設置しながら先輩が教えてくれた。


『シェリル・バッダ』というテディベア工房がある。

 そこでは八〇年以上前から製造No.0777のテディベアが作られなくなった。


 最後の『シェリル・バッダ0777』をオーダーしたのは、なんと日本人。

 なんでも、その客は製造ナンバー0777に執着して別の客から順番を買ったらしい。

「娘の名に七がついていたからだとかって噂らしい」

 と先輩。

「娘は病気だったとか、事情あって軟禁状態にいたともいわれている。誰も姿を見てないんだ」

 だがベアが届いた夜にその一家は火事で亡くなってしまう。

 工房はこの女の子を偲んで『シェリル・バッダ0777』は永久欠番にしたそうだ。


「ここからが面白い。それから各地で『シェリル・バッダ0777』を持った女の子が目撃されるようになった。少女の儘で八〇年以上ずっとだよ」

 このベアは特別オーダー製で誰が見ても判別できる。

 そういって白黒の画像を見せてくれた、あまりに異様な注文だったので工房側が写真に残していた。

 私は声を上げた。そのベアはシャム双生児のように頭が二つあった。

「怖がらないで。目撃された場所に注目してほしいね」

 先輩は女の子の目撃場所を列挙した。


 ベルリンの壁が壊れた日。

 日本に初上陸したパンダの檻の前で。

 初代マッキントッシュの発表セレモニー。

 豪華客船の出港式で。

 なんでもない田舎の結婚式場で。


 双頭テディベア抱いてを拍手させたり、バンザイさせる女の子を複数人が見ている。

 どれも華々しいハレの日の出来事だ。

「きっと相棒と一緒にいっしょに楽しく旅をしてるんだよ。このまま人類が進歩したら、シェリル・バッダ0777が木星へも行く日も来るかもしれないね」

 そういって先輩は笑った。


「でも『シェリル・バッダ0777』を探す者には不幸があったとも訊くから気をつけた方が良いよ」




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