捨てられたぬいぐるみ
ねこじゃ・じぇねこ
第1話
「はあ……」
山へ帰るカラスの鳴き声がうるさい夕暮れ時、長らく不法投棄の現場となってしまっている廃墟のゴミ山で、一人の青年がひたすら探し物をしていた。
探しているのは、サメのぬいぐるみである。
なんてことはない古臭いぬいぐるみだけれど、もう何処にも売っていない代物である。
「誰かに持っていかれちゃったのかも?」
私は彼にそう言った。
彼が作業を始めてからもう六時間ほどになる。
くたくたに疲れているだろうし、心配だったのだ。
「なんならさ、新しいぬいぐるみを贈ってあげようよ。君と私からってことでさ」
それに、ちょっと嫉妬していた。
「友情の証って感じがしてなんだかいいじゃん?」
「それもそうだね……もう少し探してみて、駄目だったらそうしようか」
爽やかに笑ってから、彼は再びぬいぐるみの捜索を始めた。
その様子を私は手伝うわけでもなく、ただじっと見守っていた。
ぬいぐるみの持ち主だってすっかり諦めているというのに、彼は諦めようともしない。
その理由を、私は考えないようにしていた。
「それにしてもさ、酷い話だよね」
私は彼の背中に言った。
「皆、前はあんなにあの子の事をちやほやしていたのにさ、結局、顔だけだったってことなのかな。でも、それならそれで放っておいてくれたらいいじゃん。何もこんな嫌がらせなんてしなくても」
「憎まれていたらしいからね」
彼は言った。
「でも、奴らもいずれ分かるさ。こんな事したって何にもならないって。それに、彼女は恨んでいないらしいし……」
そう呟く彼の横顔に、私は少し切なさを感じた。
これが、恋をしている人の顔。
それからしばらく沈黙の時が流れていった。そして、夕闇の中で、とうとう彼は声を上げた。
「あった……!」
振り返る彼の手には、見覚えのあるサメのぬいぐるみがあった。
諦めずに見つけ出した彼は、本当に美しい笑みを浮かべていて、それがまた私の心に焼き付いた。
捨てられたぬいぐるみ ねこじゃ・じぇねこ @zenyatta031
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