彼女の名前はフランソワ

茂由 茂子

親友フランソワ

 私はぬいぐるみと会話ができる。ぬいぐるみといっても、私が幼い頃からずっと一緒に居るフランソワというテディベアだけだ。彼女は紫色のフリルがあしらわれたワンピースに身を包み、つぶらな瞳で語り掛けてくれる。いつも私のベッドサイドのチェストに鎮座しており、おしゃべりをするときは一緒にベッドへと入るのだ。

 

「ねえ、フランソワ。聞いてくれる?今日も学校で友達ができなかったんだ」

『あら、そうなの?みゆきはこんなに良い子なのにどうしてかしら』

「無視されるとかじゃないんだけど、とにかく誰とも話せないの」

『まあ。それはつらかったわね。よしよし』

 

 フランソワは優しく、私の鼻の頭を撫でてくれる。小さな手で鼻を撫でられると、くすぐったい。

 

「フランソワには友達は居るの?」

『いるわよ。とっても大好きな子』

「それはだあれ?」

『みゆきに決まっているじゃない』

「私も、フランソワ大好き!」

 

 友達の居ない私を、フランソワはいつも励ましてくれる。

 

『さあ、そろそろ勉強のお時間でしょ』

「そうだけど、やりたくないなあ」

『仕方がないじゃない。高校に進学するには、今の受験を乗り越えないと!高校に入ったら友達もできるかもしれないでしょう』

「それはそうだけど……。高校で友達、できるかな?根暗だなっていじめられないかな?友達が居ないと、二人一組になる時間が地獄なんだよ」

 

 はあっと大きく溜息を吐いた。学校の時間を想像して凹む。今の学校は早く卒業したい。だけど、新しい環境に身を置くのもすごく不安なのだ。こんな私にフランソワ以外の友達なんてできっこない。

 

『それは辛いわね。でもきっと、高校に行けば変わるはずよ。だって、みゆきのことを誰も知らない高校に行くんでしょう?』

 

 それはフランソワの言う通りだった。今の学校の人たちと被らない高校を受験しようと決めている。そうするのは、中学で友達の居ない自分を脱却したいからだ。

 

『そんなに不安にならなくても大丈夫。きっとみゆきにとって大切な友達ができるから』

 

 フランソワはまた、ちょんと私の鼻を撫でた。

 

「フランソワが一番の親友だよお」

 

 ぎゅうっと固くフランソワを抱きしめる。

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