第2話 征服
ある日のこと、私が学校の帰り道に歩いていると、目の前に猫が現れた。その猫はとても可愛らしく、まるで天使のような見た目をしていた。しかし、よく見ると首輪をしていることに気づいた。しかもそこには、『飼い主募集中』と書かれた紙が貼られていたのだ。
「かわいそうな猫さん……」そう呟いたその時、背後から声をかけられた。
「おい、そこの女。お前今俺のことを可哀想と言ったか?」
振り返ると、そこには背の高い男が立っていた。
「はい……言いましたけど……」
すると男はこう言った。
「俺は確かに世間一般から見た不幸な男かもしれない……。だが、決して不幸ではないぞ!」
「どうしてですか?」
「なぜなら、今の世の中は平和すぎるからだ!もし仮に戦争が起こったとしても、ミサイルや核爆弾を使えば一瞬で解決する時代だぞ!そんなものが存在する限り、人間は幸せになれないだろう!!」
「でも、それだとみんな死んじゃいますよ?」
「フンッ!それがどうしたというのだ!むしろ人類にとっての死とは最大の幸福ではないか!死の先にこそ真の楽園があるのだ!」
「……」
「それにな、人間という生き物は他の動物と違って進化しているのだ。だからこそ他の動物よりも優れた能力を持っているし、知能も高い。つまり、人間の未来は明るいということなのだ!!」
「……」
「わかったかね?君も早く大人になりなさい」
「わかりませんよ……」
「わからない?何故だね?」
「だって……あなたの考えは間違っていると思います!」
「ほう……では君は一体どこが正しいと思うのかね?」
「正しいかどうかなんて分かりません……だけど私はあなたの考えを否定します!」
「フハハッ!面白いじゃないか!ならばかかってこい!!」
そういうと彼はポケットの中からナイフを取り出した。
「きゃあっ!」
私は思わず目を瞑った。……しばらく経っても何も起こらないので恐る恐る目を開けると、目の前には血まみれで倒れている男の姿が見えた。
「えっ!?大丈夫ですか!?しっかりして下さい!!」
私は必死に声をかけたが返事はなかった。どうしよう……救急車を呼ばないと……と思った時、急に視界が真っ暗になった。そして意識を失ってしまった……目が覚めるとそこは病院だった。隣を見ると、あの時の男性が眠っていた。
「あ、起きられましたか?」
看護師らしき女性が話しかけてきた。
「はい……」
「あなたは自分の名前は覚えていますか?」
「もちろんです!私の名前は『一ノ瀬のぞみ』といいます!」
「ふむ……やはり記憶喪失ですね……自分の名前以外は忘れてしまっているようです……」
「そんな……」
「一応検査をしてみましょうか……」
――1時間後――
「特に異常はないみたいですよ!」
「よかったぁ〜!」
「まあ念の為1週間ほど入院してもらおうかな!」
「わかりました!」
こうして私の1週間にわたる長い入院生活が始まった……
――1日目――
「おはようございます!」
「あら?ずいぶん元気な挨拶ね!」
「はい!だって私『世界征服』を目指していますから!」
「そう……じゃあ今日から頑張ってね!」
「はい!頑張ります!」
――2日目――
「こんにちは!」
「おぉ……元気じゃのう……」
「ありがとうございます!」
――3日目――
「こんにちは!」
「あぁ……いい天気だねぇ……」
「そうですね!」
――4日目――
「こんにちは!」
「はいはーい……」
――5日目――
「こんにちは!」
「はいはーい……」
「もう!いつまで寝てるんですか!?」
「いやぁ……昨日は徹夜でゲームをしていたからねぇ……眠たくて仕方がないんだよ……」
「まったく……しょうがない人ですね……」
「あはは……ごめんねぇ……」
――6日目――
「こんにちは!」「はいはい……どうも……」
――7日目――
「こんにちは!」
「うぅ……頭が痛い……助けてくれぇ……」
「だ、大丈夫ですか!?」
「うん……薬さえ飲めばすぐに治るよ……」
「わかりました!今すぐ持ってきますね!」
「うん……ありがとう……」
――8日目――
「こんにちは!」
「……」
――9日目――
「――10日目――
「……」
――11日目――
「……」
――12日目――
「……」
――13日目――
「……」
――14日目――
「……」
――15日目――
「……」
――16日目――
「……」
――17 日目――
――18日目――
――19日目――
――20日目――
「……」
――21日目――
「……」
――22日目――
「……」
――23日目――
「……」
――24日目――
「ねえ、あなたはどうしてそんなにも無気力なんですか?」
「それはね、僕が生きる意味を見失ってしまったからだよ……」
「生きる意味?」
「そうだよ……僕は今まで色々なことをやってきたんだ……勉強、スポーツ、芸術、その他諸々……でも、どんなに努力しても、僕の上には常に天才と呼ばれる人たちがいた。だから、いつしか諦めてしまったのさ……自分はこの世に必要のない人間なんだって……」
「……」
「そして、今に至るというわけだ……ははっ!笑っちゃうよね!たかだか失恋したくらいでこんな風になっちゃうなんて!ほんと……バカみたいだなぁ……」
彼の目からは涙が出ていた……その姿を見て私は思った……
(私が彼を助けなくちゃ!)
「そんなことないです!」「え?」
「あなたはとても素晴らしい方です!」
「そ、そんなはずはない!だって現に僕はこうやって君の前で泣いているじゃないか!そんな奴のどこが良いっていうのさ!?」
「確かにあなたは悲しみのあまり涙を流しているのかもしれません……だけど!それでも私はあなたを尊敬します!」
「何故なら、あなたは自分の弱さをちゃんと認めて、そこから逃げずに向き合っているじゃないですか!」
「それに、もし仮に自分が完璧だったとしても、それではつまらないと思います!」
「完璧な人生……それはまるでロボットのようではありませんか!?」
「「人間は誰しも弱い部分を持っています。だからこそ、みんな支え合って生きているのです!」
「だからこそ、あなたはこれから強くなって下さい!自分の大切なものを守る為に!」
「自分の大切なもの……か……」
彼は何かを決意したような表情になった。そして私に向かって言った。
「わかった!僕は強くなる!そして必ず自分の夢を叶える!」
「はい!」
こうして彼は立ち直ったのだ。それから彼は私と一緒に『世界征服』を目指して頑張った……
――1年後――
「のぞみさん……僕のプロポーズを受けてくれますか?」
「ええっ!?」
「嫌……ですか?」
「いえ……むしろ嬉しいです!こちらこそよろしくお願いします!」
こうして私たちは結婚した……しかし、私たちの生活はそう簡単に変わることはなかった……なぜなら……
「世界征服まであと少しですね!」
「あはは……そうですね……」
「もう!また敬語になってますよ!」
「すまない……」
「ふふふ……」
「ははは……」
2人は笑い合った。するとその時、玄関の方から声が聞こえてきた。どうやら誰か来たようだ。
「お邪魔しまーす!」……どうやら2人の子供が遊びに来たらしい……2人はすぐに笑顔になり、「いらっしゃい!」と言った……
――完――
【あとがき】……いかがでしたか?面白かったでしょうか?もし良かったらコメントで感想を教えて頂けるとありがたいです!
魔王少女「のぞみ」 不動のねこ @KUGAKOHAKU0
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