第3話~ドラゴン、家を買わす~

 ダンテは2日酔いの様な気分で昨日のことを思い出して頭を抱えていた。

 むしろただの2日酔いならどれだけましかと思えるがクゥが悪いわけではないし、むしろ可愛いものだ。

 しかしそのクゥはいぜん素っ裸でダンテの寝床の藁の山に潜り込んでダンテに抱き着いている。

 こんな所を誰かに見られたらあらぬ誤解を受けかねない。


 バッ!


 ダンテは急いで入り口を確認した。

「ふー。どうやら朝のはよから凸かましてくるヤツはいないようだな」

「パパ―。凸かましてくるって何~?」

「それはな~、何の断りもなく晩御飯を食べにくるお隣さんや、寝起きドッキリとか言って朝人の家に勝手に入って来る人たちのことだよ~」

「ふ~ん、変な人たちもいるんだね」

「あのなぁ。いやまぁいい。そんなことよりさっさと服着ろ。朝飯にするぞ」

 朝から人の寝床に凸ってきたクゥのことはツッコまず、ダンテは朝飯の用意を始める。

 まずは湯を沸かして沸騰したら塩を1摘まみお湯に溶かす。そして束になった棒パスタ中太を軽くねじって鍋に入れれば綺麗に広がる。

 そしてパスタをゆがいている間に昨日のロック鳥の切り身を酒場の料理長から学んだオリジナルスパイスのたれに漬け置いたものをフライパンで強火にてカリッと焼き上げる。

 ゆであがったパスタはしっかり湯切りをして塩コショウで下味をつける。

 小さくちぎったレタスをお皿に盛り、その上にパスタを乗せる。

 お肉はさいの目に小さく切って、同じくさいの目に切ったトマトを一緒にパスタの上に乗せて、全体にオリーブオイルをかけて細かく刻んだバジルを振りかける。

 最後に粉チーズを振りかけて出来上がり。

 その間に昨日の要領で服を着たクゥがちゃぶ台を出してくれたので、出来た朝食を乗せて2人で食べた。

「美味しー~~~~」

 酸味の利いたトマトとバジルとオリーブオイルの爽やかな味わいがハーモーニーを演じながらスパイスの利いたロック鳥の切り身がアクセントになり、濃厚な旨さとなってパスタ全体を彩り生み出している。

 そして粉チーズのマイルドな甘みが隠し味のように良い働きをする。

 まぁ、粉チーズは一番上にかかってるし全然隠れてないんだけどね(笑)。

 しかし、クゥは本当に美味しそうにご飯を食べてくれる。

「ガハハハーーー」と笑うみたいに豪快に牙を見せて笑う。これがなかなかに可愛い。

 ダンテはちょっと気が抜けたように息を吐きクゥを見つめながら朝飯を口に運ぶ。

「ごちそうさまー」

「ご馳走様っと。とりあえず今日はレーヴァテインの奴が来るからその前にギルドに顔を出しておくか」

「ギルドー。ねぇパパ、私も付いて行っていい?」

「もちろんいいぞ」

「わーい、やったー。」

 嬉しそうに笑うクゥを見ながら朝ごはんの片づけをするダンテ。

 そして2人で屋敷を出ると―———


 ドラゴンがいた。


 こう、屋敷の中を覗き込むように地面に伏せの体勢でそこに居た。

「レーヴァテイン!何してるんだ」

「何してるんだはこっちのセリフなんだな」

 ダンテの叫びにレーヴァテインは静かに返す。

「荷物を持って来たのに何なのだなコレは」

「荷物をもう持って来たのか?早いな。てか、何に怒ってるんだオマエ」

「何って決まってるんだな。お前が済んでるこのにだな」

 そう言ってダンテ達が出て来た建物をあごでしゃくる。

「何が馬小屋だ。独身貴族様のお屋敷だぞ」

「100歩ゆずってワンルームのキッチンだけ充実している小屋を独身貴族のお屋敷と認めたとしよう。だが、藁の寝床はないだろう。藁の寝床は。マジで馬小屋だな」

「馬小屋、馬小屋って馬なんていねーよ」

「馬鹿は住んでいるのだな」

「おー上手い上手い」

 ダンテが顔を引きつらせながら手を叩いていると、そんなダンテの服の裾を引っぱる手があった。

「パパー、オジサンと喧嘩してるの?」

「いや、遊んでるの」

「ワシは大喜利のつもりはないのだな。しかしこれでは持って来た荷物が入らんのだな」

「そんなに持って来たのか。どーしろと」

「家を買え。その子に見合った立派な家を」

「立派な家ったてこんな田舎にそんなもん―———」

「それなら町の反対にあるのだな」

 レーヴァテインは顔をあげて遠くを見る。

「バッ―――、アレは王族の別荘だ」

「ん?あぁそうか、お前は王族の―——」

 バッとダンテが手を振りかざして。

「それ以上言うな」

「……分かったのだな」

「……………………」

 ダンテは黙って不貞腐れた顔をする。

「では建てるのだな。それくらいの金は―——」

 レーヴァテインがそう言ってると町の方からこちらに向かてくる一団があるのが見えた。


 その一団をダンテも視認した直後。

「クゥ、逃げるぞ」

 そう言ってダンテはクゥの腰を抱えて走り出そうとした。

 しかし、一足早く一段の中の豪華な馬車の御者が馬に鞭を入れて客車のことを考えてないようなスピードで走り出した。

 そしてドリフトを馬車で行いダンテの前に回り込む。

 ご丁寧なことに客車の入り口がダンテの目の前に来るように止めていた。

その入り口の扉にはアフタヌーン王国の王族、トワイニング王家の家紋である盾に王冠と羽ペンの紋章が描かれていた。

 それを見たダンテはあきらめたような無表情になり、クゥを降ろして自分は地面に片膝をついて顔を伏せて臣下の礼を取る。

 これを見ていたクゥはよく分かっていないがダンテと同じポーズを取る。

 そしてダンテ達の前で扉が開かれる。

 まずは銀髪に褐色肌をしたメイドが扉を開いて馬車から出て来る。

 そしてそのメイドのエスコートで青いドレスの金髪碧眼の美しい少女、エイラ・ハイブロウ・トワイニング、エイラ姫が馬車から降りてきて。

「オジ様、頭を上げてください。というか、頭なんか下げないでください」

 開口一番そう告げた。

 しかし、そう言われたダンテは―——。

「恐れながら私めは一介の冒険者に過ぎないダンテというモノにすぎません。大変に光栄なことですがお答えできません」

 そうかたくなに断ったのだった。

 断られたエイラ姫は美しい眉を寄せて。

「そうですか。今はダンテと名乗って居るのですか。……分かりました。オジ様が意地を張るなら、わたくしも意地を通させていただきます」

  そう言うやエイラはダンテの居る地面に降りて、ダンテと同じ地面に膝をついて、ダンテの顔を両手でつかんで目線を合わせてくる。

「おじ様と私は同じ人間です。どれだけおじ様がしらを切ろうと私は逃がしません」

 碧い瞳に強い意志を宿してダンテの灼眼を覗き込むエイラ。

「…………本当にいい女に成長しましたね」

「キモッ!」

 グサッ!

 ちょっと真面目に哀愁を漂わせてつぶやいたダンテにエイラの言葉が突き刺さった。

「オジ様の慇懃な態度とか気持ち悪いです。もっとこう、く~だ~け~て~」

 こう、ろくろを回すようなポーズで叫ぶエイラにダンテはこめかみを押さえてうめく。

「どうやら相当なお転婆に育ったようだな」

 ダンテがぶっきらぼうに毒を吐くと。

「そうです。そうでなくてはオジ様ぽくないです」

 そんなやり取りをしていたら褐色のメイドが進み出てくる。

「失礼ですが姫様はダンテ殿とお知り合いで?」

「そう言うマルタこそおじ様と知り合いなの」

「知り合いと言いますか、街の会合で冒険者の顔役として見知っている程度ですが」

「そっかー。なるほどそういうことかー。私もめんどくさがらずに会合に出席していればもっと早くにオジ様を捕まえられたのかしら」

 と、思案にふけるエイラ。

「しかし、国外に出ないどころか王室直轄領でのんびりしてるなんて思わなかったわ」

「して、姫様。このダンテと言う冒険者とはどういう御関係なのですか?」

「それはね―——」

 と、エイラが答えようとしたところをダンテが割って入る。

「どうも、改めましてダンテです。エイラ姫様とは、いてっ――

……かつて一時ではありますが護衛の栄誉を賜っていました」

 エイラはダンテの他人の様な呼び方にふてくされて、ダンテのふくらはぎをつま先で蹴って、かつあからさまな誤魔化しに頬を膨らましていた。

 マルタは2人のやり取りから何となくダンテの立場を想像した。

 しかし、それにあえて首を突っ込む野暮はしない。

 こういうのは傍でゆっくり眺めているのがオツなのだと内心ひそかにほくそ笑む。

「改めましてマルタと言います。若輩者ですが姫様のお付き人として今の護衛役を任されています。今後ともよろしくお願いいたします、

 エイラとは最後に会ったのが10年前のことで当時12歳だったから今は22歳だろう。そして、このマルタと言う護衛役は見たところ16・7歳くらいだろう。

「女性に年を聞くのは失礼ですが、マルタさんはおいくつですか?」

「今年で15歳になります」

 丁寧ながらも無表情な挨拶だったが、その内に秘めたるモノを感じたダンテはマルタを面白い女だと思い握手した。

「その若さで近衛ですか。いろいろお話をお聞きしたい。今度お茶でもいかがですか」

「あら、意外とストレートなお誘い。ふふふ、喜んで。私もダンテさんに興味が尽きません」

「う~~。そんな事よりドラゴン。おじ様ドラゴンの子供を拾ったって」

 なんかダンテとマルタが通じ合っているように感じたエイラは2人の間に割り込むように本来の目的を叫ぶ。

「あぁ、それなら」

「パパー、もうおしゃべりしてもいいの~」

「ああ、いいぞ。偉いなぁ~自分から静かに出来て」

「えへへへへ~~~~~~」

 ダンテがクゥをほめいると。


「うそよ。うそうそうそうそうそ~~~~」


 とエイラはウゥリィィィィィィ!と叫びそうな勢いで、右手の小指の第一関節を嚙みながらのけぞって叫びをあげる。

「パパ~。このお姉ちゃん頭大丈夫?」

「うぅ~~~~~~ん。パパもちょっと心配になってきたぞ」

 と2人で言っていると。てか、マルタもちょっと距離を取っている。

「それはこちらのセリフです」

 そうエイラに詰め寄られたダンテは首の後ろを掻きながら。

「俺は頭を心配される覚えがない」

「その子供です!」

「クゥか?」

「私?」

「年端もいかない少女をそんなあられもない恰好で連れまわし、私にやさしくしていたのもわたくしが小さかった頃の話。これではまるでオジ様がロリコンみたいじゃないですか」

「パパ~、ロリコンてなに~。パパはロリコンなの~?」

「パパは違うよ~。でも、ロリコンてのはクゥみたいな子供に欲情する悪い大人だから、股間を蹴り上げれば退治撃るから出会ったら迷わずに退治するんだよ」

「サラリとえげつない事を教えますわね。でも、おじ様もこんないたいけな少女を~~~」

 「を~~~」とエイラの言葉が尻すぼみする。指さしていたクゥをまじまじと見て今更ながらに気が付いたようだ。

「尻尾と羽がある。もしかしてこの子がドラゴン?」

「そうだぞ」


「やっぱりオジ様はロリコンだったのですねぇ!」


 またもや小指を噛んでのけ反るエイラ。

「なんでそうなる」

「だって、ドラゴンの子供にわざわざそんな少女の姿をさせてるじゃありませんか」

「これは生まれつきだ」

「生まれつき?」

「この子は生まれてくるときに親と認識した者の魔力と生体情報を取り込んでその者と同じ種族として生まれてくるんだ」

「やっぱりオジ様はロリコンなんですねぇ~!」

 またもや小指を噛んでのけ反るエイラ。

「だからなんでそうなる」

「だってそれはその子の産まれたままの姿をガン見したということでしょう」

「ガン見はしてねーよ。あと不可抗力だ。あと俺は親だからいいの」

「お年頃を考えてください」

「生後1日だからね。あと10歳でもパパとお風呂入る娘もいるからね」

「確かにそうですね。———って、1日。この娘が?」

 と驚くエイラ。

「私はクゥ。生後1日です」

「おっ、偉いなちゃんと自己紹介出来て」

 ビシッと敬礼のポーズで自己紹介するクゥの頭をダンテはクシャクシャと撫でる。

 それをうらやましそうに眺めるエイラ。

 それに気が付かないダンテと、気づいて内心ニマニマする無表情のマルタ。

「それにしても指は噛まないんだな」

「お約束の1発芸扱いしないでください。それと、そのようなドラゴンの生態は聞いたことがありません」

「それについては生みの親がだんまりでね」

 そう言ってダンテがレーヴァテインを親指でさすと、スーーーと薄い魔力の膜がはがれていく。

 するとその場はにわかに騒然となった。

 当然だ。

 突然目の前に全長10mを超えるドラゴンが現れたのだ。

 付き人達は腰を抜かし、マルタはエイラの前に飛び出し武器を、暗器の類を構えた。

 

 アレは確かグローブ森林に住む暗殺者部族の武器だったな。とダンテは思いながらマルタの動きを観察していた。


「マルタ、武器を降ろしなさい」

「ですが姫様」

「大丈夫です。この方はお知り合いです」

「……かしこまりました」

 マルタがエイラの後ろに下がり、エイラが1歩前に出る。

「お久しぶりです。レーヴァテイン様」

 エイラはスカートをちょこんとつまんでお辞儀をするカーテシーと言う挨拶をする。

 それで従者たちの動揺は収まった。しかし、今度は別種のざわめきが起きる。

 それもそうだろう。

 レーヴァテインと言えばアフタヌーン王国では誰もが知っている、絵本にも出てくる伝説のドラゴンである。

 「八大竜王」の1体、「賢者」「真紅の勇者」とうたわれており皆にとっては憧れの存在だった。

「姫よ。其方は何者だ?」

「私はエイラ・ハイブロウ・トワイニングと申します。父の戴冠式で1度お目通りさせてもらってます」

「おお、エイジングの娘だな。覚えているぞ。しかしエイラ姫よ当時のおぬしはまだ幼かったがなかなか利発だな」

「ありがとうございます」

「それにそこのメイド、わしを前に主の為に身をていす。その勇気あっぱれ」

「ありがたき御言葉」

 マルタは目を伏せて礼を言っている。その横でダンテが不貞腐れたような顔で言った。

「ケッ、偉そうに。自分はロッ―――」

「ダンテが子供の頃の話でも―――」

「あ~~~。なんでもありませーん」

 ダンテは叫んでレーヴァテインの言葉を遮った。

「オジ様とレーヴァテイン様は仲がよろしいんですね」

「喧嘩するくらいにはね」

 とはダンテ。レーヴァテインは。

「大事な娘を任せられるぐらいには」

 とクゥを愛しむようにも憐れむようにも見える目で答えた。

「やっぱりこのクゥ……クゥちゃんは特別なんですね」

「そうだな」

「詳細は教えてもらえますか」

「無理なんだな」

「そうですか」

「まぁ、この子が役目を果たさなければならぬのはドラゴンとして成人を果たしてからだな」

「ドラゴンの成人。成人?成竜じゃね」

「その子の場合は成人でいいんだな」

「つまりクゥの場合は20年か」

「いや50年くらいだ」

「おい!人間の成人は20歳だぞ」

「成長が遅いのだな」

「あ~、肉体年齢か。納得した。———って言えるか。そりゃ人間じゃない」

「それまでしっかりその子を育てるのだな」

「俺の年齢考えろ。それまでどう生きろと」

「それなら問題ないのだな。卵が孵る時に親の情報を得ると同時に、親の方も子供を育てられるように変化させるのだな」

「何?俺知らないところで体の中いじくられてんの。怖っ!」

 ダンテは自分の体を抱いて震えていた。

「そう言う訳でがんばるのだな」

「へいへい分かりましたよ」

「ちなみにある儀式で抱いた女もお前と同じ体質になるのだな。母親も必要だろうから女が出来たら言うのだな」

「女か~~。オジサンにもなると興味が―――」

 と首の後ろを掻きながら言うダンテに。

「パパ~。私ママが欲しい~。兄妹も欲しい~」

 と、クゥによる爆弾が投下された。

「……まぁ、頑張ってみるわ」

 と、暢気に構えるダンテだが、ダンテが知らないところで女の戦いが始まろうとして――――

「いっぱい欲しいなぁ~~~~」

 いたが、クゥの1言で淑女協定が結ばれたのだった。


「とりあえず、話がまとまったのなら私が気になっていたことを聞かせてください」

 と、エイラが進み出るが反対の言葉はなかった。

「では、私はダンテと言う冒険者がドラゴンの子供を拾ってパパになったという噂を聞いて尋ねてきました。そしたらそのダンテと言う冒険者がオジ様だった訳ですが、何処に住んでいらっしゃいますの?」

 と、腕を組んで胸を張って王族らしい堂々としたたたずまいでダンテに訊ねた。

「どこって、ここだが?」

 ダンテが背後の独身貴族の屋敷を親指でさす。


「はぁ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~」


 と、長い溜息を吐いたエイラは、スゥーと深呼吸して。

「まさかオジ様がこんな物置小屋に住むほど落ちぶれていたとは思いませんでしたわ」

 と、思いっきり上から目線で見下してきた。


「はぁ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~」


 それに対してダンテもため息で返した。

「馬小屋の次は物置小屋と来たもんか」

 そしてダンテも見下すように対峙した。

「流石はお金持ちの王族のお姫様。人が生活している家なんてみすぼらしすぎて物置小屋にしか見えませんか。良い女に成長したと思っていたけどどうやらとんだ傲慢なお姫様になっていたみたいだな」

「私も王族。多少は驕りますわ。ですが庶民の暮らしを知らないわけでも見下してもいませんわ」

「それでもそれ俺の自慢のでも屋敷を物置呼ばわりか!」

 そこでエイラが叫びをあげてダンテの家を指さす。

「どこからどう見ても物置小屋にしか見えないからですわ。この田舎のローゴの町の皆さんの家だってもっとしっかりした造りですわよ。こんな木造平屋の何の塗装もないくたびれた掘立小屋では物置小屋としか呼べませんわ」

 ここでダンテも声を荒げる。

「この無駄を省いた情緒ある外観がか?」

「ええそうです。ただ無駄を省いただけなら中を見せてください」

「いいだろう。見て驚くな!」

 そう言ってエイラを家の中に招く。


「なっ――――、これは―――――」


 家の中を覗いたエイラが小指を噛んでのけ反った。

「どうだ。驚いただろう。この無駄をとことん省いたスマートな家に。

 ボカン!

 エイラがダンテの脳天に拳骨を叩き込んだ。

「痛いな。何するんだ」

「あまりのありさまに殴らずにはいられなかったのですわ」

「どこが悪い」

「まず家具は!」

「そこにちゃぶ台があるだろ」

、ですわよね。そしてベットは」

「そこにあるだろうが」

「この藁の山ですか!そして何より床はどうしたんですか」

「ここにあるだろうが!」


これでは物置小屋より馬小屋ですわ」


 エイラはとうとう地団駄を踏み始めた。そのエイラにかけられる言葉があった。

「エイラ姫。其方もそう思うか?」

「レーヴァテイン様、貴方もそう思いますか」

「こんなところで子供を育てさせたくない」

「そうですわ。オジ様、うちの屋敷に―――」

「王族の屋敷には住まない」

「でしたら」

「そうだな」

「なんだよ2人して結託して―――」


「「家を買え」」

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