Mの軌跡

淡雪蓬

第1話Nとの出会い

 科学が進歩し、技術が発展を遂げ、この国は豊かになった。時代と共に世界との交流も盛んとなり、人も物も流入して来て、文化も価値観も多様化した。そうした変化は多くの富と利益を齎した一方で、人間本来の素朴な生物的本能を狂わせた。

人間には、発情期が存在しないと聞いた事がある。それはつまり、動物としての本能に従って子孫を残そうとする事も、そういった欲求を排除して生き抜く事も選択出来るということだ。人間に与えられた思考する脳と、それに付随して可能となった諸々の自由は、人間と言う生物を幸福と言う点でも、不幸と言う点でも唯一無二の存在にしたと私は考えている。人間は思考する事によって計り知れない偉業を成し遂げ、自分達を生み出した世界を、自分達の為に作り替えて来た。

しかし、未だに実在しないものに思いを馳せられるこの能力は、ありもしない恐怖や不安も容易に捏造する事を可能にした。その結果、人間は妄信だけで生き長らえ、妄想だけで死ねるようになってしまった。論理的に情報を処理する頭とは別に、制御不能な心と言う爆弾を抱え込んだのだ。

 今から六十年ほど前に、私達の国は《国民再生計画》と銘打った奇策を実行に移した。予てから議論されて来ていた少子化問題に対する解決案の一つとして提唱されたのが、この安直な政策だった。その概要と言うのは、次の通りだ。

まず、成人年齢満十八歳に達した健康な男女からの精子と卵子の提供を義務付ける。次に、提供されて保管されている精子と卵子の中から、コンピューターが無作為に選出した一対で受精卵を作り、人工装置で培養して一人前の人間の形にする。最後に、その人造人間に【正しい教育】と言う名の装飾を施して社会に送り出す。そうして社会の荒波に放流された彼らは、この国の為に労働力と生産力を息絶えるまで提供し続けるのだ。要するに、政府は国民の不足分を家畜のように生産する事で補おうと考えたのだ。無論、この政策が発表された直後の世間の動揺と反発は言うまでもない。けれども、政府は生涯未婚率の上昇にも、平均初婚年齢の上昇にも成す術など無かったし、何をしても文句を言われる少子化対策と子育て関連政策に対しても今や精根尽き果てていた。《国民再生計画》なら、国民の負担は精子と卵子の提供だけで済む。直ぐにとは行かないが、労働力が増加すれば国益の増加にも繋がり、決まって非難される税金問題も改善の糸口が掴めるかも知れない。そんな甘言に騙されて、結局この国の民衆はこの政策を受け入れた。試す価値くらいはあるだろうと頷いた。実際、命を選別する出生前診断に比べたら倫理的な問題は生じていないように見えた。人工的に生み出され、親も知らずに成長して大人になるとは言っても、権利上は他の一般家庭の子供達と何ら変わらないのだ。結婚も離婚も本人の自由意思によるものだし、職業を選択する権利も有している。ただ一つ許されていないのは、自ら死を選ぶ事だけだ。しかし、このたった一つの制約が守られない事は少なくなかった。

 《国民再生計画》の一環で生み出された両親を知らない子供達は、《特別出生児》と呼ばれている。彼らは通常成人するまでの期間を政府管轄の教育機関で過ごし、成人すると同時に社会に出て、一人前の人間として生きて行くよう命じられる。けれども、国家の為だけに生み出され、国家の為だけに生きるよう教え込まれた彼らが、人間として生きて行く事なんて容易ではない。何故なら、彼らは自分の為に生きる理由を何一つ持っていないからだ。生まれてから死ぬまで、誰かに捧げた生命だからだ。それなのに、どうして生きる事に希望を見出せるだろう?どうして生きる事に執着出来るだろう?だから、彼らはいとも容易く道に迷い、足を止める。そして、自分の前に続いている脆い一本道から目を背けて、その両側で口を開けている奈落の闇を覗き込む。そんな事態が後を絶たないと知った政府は、哀れな人造人間達に更なる枷を加える事で彼らの自死を抑止しようと試みた。その為に各地に建設されたのが、《再教育施設》と呼ばれる収容所だ。自殺未遂を犯した者や、定期精神診断で異常が認められた不良品が回収され、治療された上で正常な製品として再出荷される為の工場なのだ。しかし、残念ながら人造でも人間は人間で、物のように壊したり直したり出来る代物ではなかった。その結果、《再教育施設》は《監獄》と言う不名誉な綽名(あだな)で呼ばれるようになった。この《監獄》は現在全国に二十箇所点在しているが、その中でも《第十一再教育施設》は《陸の孤島の監獄》と言われ、一度入ったら二度と出て来られない施設としてその名を轟かせていた。この施設は《三鷹山みたかやま》と呼ばれる人里離れた山の中腹に広がる《しだの森》と言う鬱蒼とした森の中にひっそりと佇んでいる。見渡す限りは植物しかないこの静謐な聖域こそ、今私が暮らしている麗しの住居だ。

――そろそろ行かないと。

壁掛けの丸時計を一瞥し、私は飲み終えたコーヒーのカップをテーブルに置いて立ち上がった。カップを洗う暇が無いほどでもないけれど、面倒なので流し台に放置して部屋を出る。

「行って来ます」

玄関の扉に右手を掛け、顔だけを誰も居ない室内に向けて一言発する。

意味なんて無い。教え込まれた習慣だから、留守番をしている部屋に毎日挨拶をしているだけだ。

私は恒例の独り言を言い終えると、部屋を出た。よく晴れた青空が、眩しくて目を細めるくらいの陽射しを注いでいた。


 【再教育】と言う名称の通り、この施設には教育機関がある。政府によって定められた義務教育課程を修了せずにこの施設へ入所した者達は、まずは勉学に励まなければならない。敷地内に建てられた学舎棟では、初等・中等・高等の三段階にクラス分けが成されており、平日の午前八時三十分から午後五時まで授業時間が設けられている。一般の学校では学年別に授業が行われているけれど、ここでは人数が非常に少ない為、学年分けはせずに一つの教室での合同授業となっている。そうした事情から授業と言ってもワークブックの学習が殆どで、実質的には監督役の教師が居るだけの自習に近い。施設の職員は住み込みが普通だが、わざわざ麓の町から一時間以上かけて通っていると言う粋狂な人もいる。私が通う高等科の担任である園田美知子先生は、その物好きな通勤派の一人だ。

「はい、みなさん。今日もおはようございます」

いつもののんびりとした歩みで教室に入って来た園田先生は、大きな声で明るく挨拶をして教壇に立った。笑顔を絶やさない温和で朗らかな彼女の表情は、心なしか平静より嬉しそうに見えた。その理由は、彼女の次の一言で判明した。

「今日は、転入生を紹介しますね」

そう言うと、園田先生は廊下で待機しているらしいその生徒に目配せをし、「どうぞ」と入室を促しながら軽く手招きをした。一同の視線は、一気に教室の出入り口に向けられた。間も無く扉が開いて、肩までの黒髪を揺らした背の高い少年が入って来た。彼の真っ黒な瞳は虚ろで光が無く、顔は無愛想で口は真一文字に結ばれていた。その転入生は物怖じする事も無く堂々とした足取りで教壇の横に立つと、珍獣を見るような眼差しで自分を見つめている大衆に向けて顔を上げた。

「それじゃ、自己紹介をしてもらっても良いかしら?」

新顔の登場で強張った空気が、その場に似つかわしくない先生の呑気で緩慢な言葉によって解きほぐされる。園田先生に嬉しそうな満面の笑顔で微笑みかけられたその少年は、彼女とは正反対の仏頂面でこう言った。

「アイゼンエヌです。よろしく」

まるで幼い子供を褒め称えるみたいに園田先生が大仰に拍手し、つられた生徒達も疎らな歓迎をあちこちで響かせた。私は拍手をしなかった。その必要性は感じなかったし、そもそも拍手をするのを忘れていた。私の目は、無表情なその少年の姿に釘付けになっていた。理由は自分でも分からない。ただ、何故か妙に彼の存在感が、彼の纏う雰囲気が、私の興味を掻き立てていた。ほんの一目見ただけで、目も合わせず、言葉も交わしていないのに、私はこのアイゼンエヌと言う人物に心を鷲掴みにされていた。

「席は……あら、かすみさんの隣が空いているわね。あそこにしましょう」

目に見えない運命の手が、容赦なく彼を私の近くに引き寄せた。彼は指示された通りの席の側までやって来ると、隣で呆然と自分を見つめている私に目を向けた。けれども、二人の視線は僅か一秒かち合っただけで、次の瞬間にはもう別々の対象を映し出していた。

「私はかすみ絵夢えむ。よろしくね、アイゼン君」

彼は私に目線をくれる事も無く、言葉を返してもくれなかった。私は少し残念に思ったけれど、こんなものかと自分の心に言い聞かせて、課題のワークブックを取り出した。その時不意に、

「カスミエムって、どんな字を書くんだ?」

思いがけない質問が、彼の口から零れ出した。私は驚いて彼の横顔を見つめたが、彼は横目で私の表情を垣間見ただけだった。私は適当に開いたページの余白に、自分の名前を漢字で書いて見せた。彼はその文字列を見て取ると、呟くように言った。

「霞に絵に夢ね。如何にも実体が無くてお気楽な名前だ」

そして、私が名前を書いたその下に、流麗な筆跡で自分の名を記した。

「綺麗な名前ね」

「んなわけあるか。見るからに真っ当な名前じゃないだろ」

「そうかな?私は好きよ。自分の名前も、あなたの名前も」

「お前、変わってるな」

園田先生が各自の学習に取り組むように告げる声が、遠くに聞こえる。私は彼ともっといろいろな事を話してみたかったけれど、それは仕方なく後回しにすることにした。話す時間なんて、幾らでもある。私達はこれからずっと同じ場所で学び、生活することになるのだから。

霞 絵夢

靄繕 慧奴

上下に並んだ二つの名前をもう一度だけ見直してから、私はページを繰って退屈な課題に取り掛かり始めた。最初は威勢良く黙々と課題を熟しているかに見えた黒髪の新人は、三十分もすると安らかな寝息を響かせていた。投げ出された鉛筆の先、乱れた黒髪の隙間からのぞく綺麗な寝顔を見つめながら、私は園田先生と顔を見合わせて静かに微笑んだ。


 授業の終了を告げるチャイムの音と共に、解放された生徒達は不揃いな足並みで出口へ向かって流れ出して行く。そんなクラスメイト達の背中を見送りながら、私は机の上に伏せったまま微動だにしない靄繕慧奴の身体を揺すっていた。

「もう授業終わったよ?」

私のその献身的な徒労を遠くから見守っていたのは、園田先生だけだった。彼女は生徒達から提出されたワークブックを学年別に仕分けて整頓しながら、にこやかな表情でこちらを見ていた。

「遂に起きなかったですね。給食の時もそのままだとは、流石に私も予想していなかったわ」

「死んでるんじゃないですかね?」

冗談交じりに私はそう言うと、身動ぎ一つしないその身体を思い切って後ろから抱え上げてみた。両脇を押さえて持ち上げられているその姿は、人形そのものだった。

「……おい」

そこまでしてから、漸く死体は息を吹き返した。彼は不機嫌そうに私の腕を撥ね除けると、野良猫みたいな目つきで私を睨んだ。

「起きてたよ。知らない人間しか居ない場所なんかで寝れるか」

「あら、随分警戒心が強いのね」

私の恍けた一言で靄繕君の表情は更に険しくなったが、そんな彼を宥めるように、園田先生が優しく声を掛けた。

「慣れない環境じゃあ、それだけで疲れてしまうものねぇ。ゆっくり休んで、明日からまた元気な顔を見せてくださいね」

彼女はそう言うと、整理したワークブックを抱えて、「さようなら」と律儀に挨拶してから教室を出て行った。

「あの人、保育園の先生の方が向いてるだろ」

園田先生が出て行った扉を見つめて靄繕君は呟き、

「だって、実際に初等科の先生だったらしいよ」

彼と同じ方向に目を向けて私は言った。靄繕君は私の言葉を耳にすると、何か物言いたげな顔で一瞬私の顔を見つめたが、何も言わずに目を逸らした。それから彼は徐に立ち上がり、一日分の狸寝入りで凝り固まった全身の筋肉を伸ばすみたいに大きく伸びをした。

「靄繕君は、もう帰るの?」

「帰るだろ。残った所でする事無いだろ?」

「じゃあ付き合って」

彼が言葉を返す隙を与えずに素早く帰り支度を済ませると、私は怪訝な顔をしている靄繕君の腕を掴んで教室を出た。


 私が彼を連れて来たのは、私が一番好きな場所だった。夕暮れの暖かい色に染まる空と、遠くに霞む町と、逆光で真っ黒に見える森が見渡せる、この敷地の内で一番高い場所。自殺防止用の金網さえなければもっと素敵なのだけど、吹き抜ける風は心地良いし、真上には邪魔な遮蔽物は無い。何処よりも天に近くて、何処よりも解放された屋上。《監獄》と言う鳥籠に入れられた私にとって、このちっぽけで殺風景な空間が、唯一の憩いだった。

「靄繕君は、高い所が好き?」

「別に」

「どうして?」

「何処に居たって、両足で立ってる事に変わりは無いだろ?」

「靄繕君て捻くれてるよね」

「俺は事実をありのままに述べているつもりだけどな」

ぶっきらぼうな対話を打ち切ると、私は遥かに町の姿が見える方角の金網にへばりついて目を凝らした。

行った事はあるけれど、恐らくもう二度と行く事も無い遠い町。

今こうして私がここから眺めているように、あちらからも私の姿は見えるのだろうか?

そんな愚かな空想が、夕焼け空の物悲しさと相俟って私を無性に虚しくさせる。

見えたって見ないだろう。

あの町はきっと、普通の人達にとってはありふれた、何の変哲も無い小さな田舎町なのだろうけれど、普通じゃない私達にとっては、決して近付くことが出来ない蜃気楼だ。車ではたったの一時間の距離なのに、世間から隔絶されたこの孤城とは別世界なのだ。

「私は高い所が好きよ。だって、いろんなものが見えるもの。この世界がどれだけ広いのか、人間がどれだけちっぽけな存在かを思い出させてくれるもの」

金網の向こうに語り掛けると、私は手を離して靄繕君の方へ振り向いた。彼は相変わらずの無表情で、黙ってこちらを見つめていた。

「ねぇ、友達になってくれない?」

自分でも脈絡が無い話だとは思ったけれど、私の口は勝手な事を口走ってしまっていた。靄繕君は無論不審そうな顔つきに変わった。しかし、今更冗談だとごまかすのも変だし、言い繕わなければいけないほどの失言をしたつもりも無い。確かに、友人関係と言うものはこんな形で始まるものではないかも知れないけれど、だからと言って決まったやり方があるわけでもない。何だろう?何か言い訳みたいだ。私は自分でも自分がどうしたいのかよく分からなくなって困った。肝心の相手は顰め面をして突っ立っているだけで、うんともすんとも言わない。漂う沈黙と気まずい空気が、徐々に私の心を蝕んで行く。恥ずかしいような、逃げ出したいような、支離滅裂な感情が胸の中に渦を巻いて不快になる。自分の心の乱れを制御出来なくなった私が堪り兼ねて目を伏せた時、沈黙を守って来た不動の口が漸く開かれて短い言葉を発した。

「お前、やっぱり変わってるな」

彼のその一言が、私の何に対して向けられた評価だったのか、私にはよく分からなかった。

「お前みたいな奴、《特別出生児どうるい》の中では初めて見た」

淡々と思った事を言い終えると、彼は呆然としている私に背を向けて歩き出した。私は少しの間その場で固まっていたが、気を取り直すと彼の背中を追って駆け寄った。

「変わってるってどういうこと?」

「そのままの意味」

全く判然としない彼の答えに、私は頬を膨らませた。

「変わってるのは靄繕君でしょ?」

黒髪の少年は飄々とした態度で私の不平を聞き流し、ひらりと右手を挙げただけの不躾な挨拶で会話を断絶して悠々と帰って行った。私は彼の後ろ姿に何か言葉を投げ掛けてやろうと考えたけれども、遂に何の言葉も浮かばぬままその姿は消えてしまった。


 こうして長い一日が終わり、私は学舎棟の隣に建てられた居住棟にある真っ暗な一室に帰って来た。

「ただいま」

朝と同様に、物言わぬ我が家に無事の帰宅を告げる。部屋にはキッチンがあるので自炊が出来るが、今日は料理をしたい気分ではなかった。制服を着替え終えると、私は居住棟の一階にある自動販売機コーナーへ向かった、軽食と飲料なら、二十四時間いつでもここで手に入れる事が出来る。自炊に使うような生鮮食品などは売店で売っているが、この店は平日午後八時に閉店し、週末は開いていない。施設から出られない私達には、小遣い程度の生活費が毎月の月初めに支給されている。その金額で満足出来ない場合には、施設内の仕事を手伝う事で給料を得る事も出来る。この施設に居る成人の住民には学業の代わりに何らかの労働が義務付けられており、彼らは自ら稼いだ薄給で生活をしている。生徒の身分である私は、特に欲しいものなんて何も無かった。あったとしても、それは金では買えない代物だった。私は軽食と緑茶を購入すると、脇目も振らずに部屋へ戻った。

――何であんな事言ったんだろう?

ベッドの上に寝転ぶと、私はぼんやりと天井を見上げた。

私は、靄繕慧奴と言うあの少年が気になって仕方がなかった。

【友達】なんて言うのは単なる口実で、交流する為のきっかけになるなら何でも良かったのだと思う。しかし、どうして私はそんなに彼の事に興味を持ってしまったのだろう?彼は常に無表情だし、目は虚ろだし、寡黙だし、何を考えているのかもいまいち分からない。何にも興味が無さそうで、それでいてその事を悲観しているわけでも楽しんでいるわけでもなさそうだ。一言で言えば、今の私にとって靄繕慧奴は未知の存在で、理解不可能な人間だ。きっと、だからこそその謎が気になってしまうのだろう。《再教育施設ここ》へやって来たということは、彼もまた私と同じような過去を背負っているということだ。表面的な事柄がどれだけ異なっていようとも、《特別出生児わたしたち》の本質は変わらない。このまま共に時間を過ごして行けば、いつかきっと彼を理解出来る日もやって来るのだろう。

――明日は施設の中でも案内してあげようかな。

そんなお節介な事を思いながら、私は目を閉じた。

時計の針が、規則正しいリズムを刻むのが聞こえる。

真っ暗になった視界の中に、いつかの光景が蘇る。

――おなじだよ。

あどけない少女の声が、耳元でこだました。

――おなじだよ。なんにもかわんないよ。

彼女はそう言ってくれたけれど、同じじゃない事を思い知らせてくれたのも同じ彼女だった。もうずっと前の出来事なのに、今でも時々思い出す。幼い私がほんの一瞬だけ経験した、光の世界での昔話。もう二度と戻る事の無い、今は遠い世界の御伽噺。

「みんな、元気かな……」

口から零れ出した一言は、届くはずのない細やかな願望だった。

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