友達だった手荷物
イルスバアン
友達だった手荷物
空港で搭乗前の手荷物検査。
これに引っかかると心臓がどきりとする。
刃物が入ってた?
ライターをサイドポケットに入れっぱなし?
不安がブワッと頭の中に吹き出しながら、係員の言うことに耳を傾ける。
「こちらの鞄を開けても宜しいでしょうか?」
「どうぞ」
係員が取り出したのはアンリくんだった。
「このぬいぐるみ、中に不透明なものが写りまして…」
白綿以外は何も入ってないはずだけど、3歳から一緒にいるから、記憶にないけど何か詰めたこともあるのかもしれない。
でも、家族旅行では始終機内まで持ち込んで抱きしめていたけど、そのときの検査では何も言われなかったのに…
「背中にチャックがあるので下ろして頂ければ」
係員はチャックをズルッと下ろし、中に指を突っ込んだ。
「何か引っかかってますね……グネグネとしてる」
窓口横のモニターには、先ほどリュックをエックス線で取った写真が出ている。
白黒に分解されたリュックの中身で、確かにアンリくんには綿の他に、頭と身体の中心に白く複雑なモヤがある。
(何ですかね、大事にしてたから魂が宿ったとか?)
と軽口を言いたいけど、自分でも何を詰めたか忘れている。
それに大事にしていたのは昔のこと。
今日鞄へギュウギュウに押し込んだのも、荷物を収納し終えた後、何故か目が合ったから。
折角だし、旅先にいる親戚の子にあげようと思ったからだ。
「うーん、何だか引っ掛かっていますね」
ミシミシと何かの剥がれる音がする。
そういえば昔、アンリくんと話したり一緒に外で遊びたくて玩具のハートや骨を入れた記憶がある。
あれ以来、何だか本当に動いてくれて遊んだ記憶もあるけれど、それも子供ゆえの妄想だったろう。
なんにせよ
もう私は大人で
この人形と遊ぶことは2度とないし
彼との旅行もこれで最期だ。
ブチィッと弾ける音
係員がチェックから取り出したのは、小さな脊髄と、未だ動く赤い赤い心臓だった。
友達だった手荷物 イルスバアン @Ilusubaan
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