ダブってる

エリー.ファー

ダブってる

 二人にはない物語。

 世界にはない物語。

 君と僕の金属片の物語。

 薄ら笑いの物語。

 マグカップから零れ落ちる物語。

 情熱は白く燃え尽きる前の物語。

 傀儡によく似ている物語。

 血相を変えて生きる物語。

 不浄なる千年の物語。




「物語について語る、ということで本日は小説家のヘルドヴァースクロワーズさんをお呼びしました。よろしくお願いいたします」

「こちらこそ」

「さて、早速ですが、物語を紡ぐにあたって、特に気にしている点はなんでしょうか」

「言葉を使うことですね」

「正しい言葉、という意味でしょうか」

「いえ、そのままの意味です」




「打っては消えていく」

「また打つのか」

「何度だって打つつもりだ」

「勝つしかないんだ」

「何もかも壊れかけたる神の形をしている」




「ホームランの音を聞いて死ぬ」

「敵ではなく、味方ではなく」

「では、何だというのか」

「神ではないのか」




「カレーライスの化け物がやってくる」

「逃げろ」

「いや、逃げるな」

「戦え」

「いや、逃げろ」

「何故、戦う」

「何故、逃げる」

「命が惜しいのだ」

「いや、誰もが自分を見失いそうになりながら、命を繋いでいる」

「それは、哲学か」

「いや、真理だ」

「あぁ、神よ」

「もちろん、神だ」




「答えなどない」

「クイズを楽しみますか」




「出題によって、思考を巡らせる」

「勝たねばならない。負けてはならない。悠久よ。あぁ、戦うぞ」




「本物のになるために、今を生きている」

「真実なんて幾らでも作り出せる」

「世界を見せてくれ」

「正解を見せてくれ」

「不正解こそが、私たちを大人にしてくれる」

「誰かが助けを求めている」




「才能がないのにプライドが高いんだから、バカにされてもしょうがないんじゃないの」




 ここに積みあがった会話は、何かが生まれる前の予兆と言えます。世界は形を変えて真実を創り出し、闇の中に放り投げられた贈り物が肥大化していくのです。私たちはこの草原で、新しい日々を見つめ続けるでしょう。きっと、光の中でしか見られない景色を信じて生きていくことでしょう。どうか、一つ、いや、二つ、のように数えて時間を潰すことがないように。水色の手紙に友達の影を見つけないように、滝を探すのです。数字こそがすべてのように見えて、数字に近い何かが溢れる現実には、泡だった不安がつきものです。けれど、私と一緒に歩いてくれるなら水辺には、あなたの影を置きましょう。風の音を聞きながら、明日を思う。凍てついた窓に猫の形を見つけて微笑む彼女。

 もしも、僕が白い呪いを世界にかけるなら、きっと微笑みから意味は消え去ってしまうだろう。皮肉めいた言葉が洞窟から這い出てくる瞬間を、その目に焼き付ける。アルコールが僕を殺しに来る。

 二度と。

 目覚めることのない旅に出る。

 浮遊する心を愛して下さい。

 額縁を買い取って下さい。

 ソフトボールを甘く飾り付けて下さい。

 どうか、神よ。

 僕のために祈って下さい。

 僕は神を祈ることはないけれど。




「さようなら、大好きだった人」

「君と僕で描いた世界には、何もかも歪み切った思い出が必要だ」

「この会話に意味があると思いますか」

「あなたの存在意義に乾杯」

「夜明けのために。そして、あなたの涙のために」

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