ぬいがしゃべったんだけど、何語かはわからない。

新興宗教の教祖だったけど、教祖というぬいぐるみを着るのをやめて、人として生きていきます。信者なんて知るか。

ぬいがしゃべった。

何語かはわからない。

ただ、ぼんやりと、しゃべっているんだろうな、って思ったことは、覚えている。

ただ、ギャーギャーとわめくばかりで、おそらく、人語を解さないのだろうと思った。

智に働けば角が立つ。 　

情にさお刺せば流される。

意地を通せば窮屈だ。

兎角にこの世は住みにくい。

と夏目漱石は説いたと言うが。

考えるな。感じろ。

と、ブルースリー先輩は言ったと言うが。

考えるな。ただ実行するんだ。

と、アイスは言ったと言うが。

そんなもん関係なく、わからないものはわからないのである。

一言でもいいから、ぬいの言葉がわかればいいのかなと思って、

そっと、その頭を撫でた。

その頭がパカッと割れて、私の手を噛む。

質量保存の法則って何だっけ？

いつの間にか、そのぬいは、私より大きくなり、私を食べた。

今、そのぬいが、私として、今、小説を書いている。

ねー。

今の私って私として、今、小説を書いている。

ねー。

今の私って。

人間？

それとも、ぬい？

スッ、と、人間でなくなる瞬間がある。

私はこう聞いた。

私は、人間じゃない。

神様、だと。

だから、私は、教祖になった。

高校時代の私は、教祖と言うぬいぐるみだったと思う。

教祖のぬいぐるみを着て歩いていると、信者たちが寄ってくる。

握手してください。教祖様。

御言葉を教祖様。

選挙に出てください。教祖様。

生徒会長になってください。教祖様。

どうして振り向いてくれないのですか、教祖さま。

どうして私たちの愛を受け取ってくれないんですか？教祖様。

噂が流れたのは、私が愛を受け取らなかったから？

同窓会と言うドラマを見たよ。

私はどちらかと言えば、こっち側の人間だから。

私、普通の暮らしとわからないんだ。

あのドラマに出演していた人たちが。

ああそう、和田琢磨(わだたくま)。

後、玉城裕規(たまきゆうき)。

それと、三浦涼介(みうらりょうすけ)。

後、さだもとふうま。

それと、まつしまゆうのすけ。

いしかわりょうが。

じんないしょう、あのエンター役の。

彼らが子供だった時。

言っていいのかなぁ。あれ。

冷や冷やしているんだよね。

いつばれるか？

私さ、1989年か1990年？

山形の花咲音頭？だっけ。

笠持って踊るやつ。

あれ、出てんだよね。

つまり、和田琢磨って、あの時は観客側じゃん。

たまきゆうきだってそうだ。

みんな観客席にいたのに、

いつの間にか、こちら側舞台から降りて、気がついたら、

みんな私より有名になって、私より稼いでいて、ファン数も、Twitterのフォロワー数も、私より上だし。

何が1番ホラーかって、

私はずっと無給なのに、

彼らは稼いでる。

私はACM劇場に何回も立っているけど、

彼らは1回も立ったことないんだ。

でも、たまたま性別が違うってだけで、もしかしたら向こうだって、

女に生まれたかったかもしれない。

もしも、男と女が、年収に差がなければ、こんなふうに、そんなことになることもなかったんだと思うよ。

私は、東映撮影所に一回だけ行った身だけど。

もしかしたら、あの中に、私が出た映画を見た人もいるかもしれない。

私が出た舞台を、見た人が、私より先に、大舞台に立っていることもあるのかもしれない。

世の中で1番ホラーなのは、、

そういったグロテスクな現実だよ。

もしも構造的な問題さえなければ、

芸能界であんなに傷ついて、

その傷のまま、20何年も苦しむこともなかったんだ。

やめてから何度も思い出すんだ。

あー3年目になると、どうしても、あの時3年目だったからさ。

あの時ほど最悪な事はなかったよ。

稽古場でさぁ、同い年の後輩がさぁ、

自分の好きな男がさぁ、

お前、ファンの男と付き合ってるって噂になってんだけどさぁ、全校中で噂になってんだけどさぁ、って。

あいつさぁ。

中学2年生なんだからさぁ。

周りの大人が全然止めなくてさぁ。

そういうの思い出したからさぁ。

いまだに地獄の中にいるんだよ。

仕事なんて、評価されない。

後輩にはなめられて当たり前。

お前は淫売だ。

ファンに股開いてんじゃねぇよ、とか。

毎日毎日、あいつら、何が楽しかったんだろうなぁ。

表舞台に立つから？

俺はおもちゃでもなんでもないんだよ。

自主独立の精神？

なんかお前らさぁ、

俺のこと、ぬいぐるみだと思ってる？

人だよ、人！

ただの人間。

教祖だなんだ、言うのは勝手だよ、そっちの。

俺に構うな。

俺が足音立てないから？

もう二度と、ACMみたいな劇場は立たないからさぁ、だから守るためだった。

単純に、気配を消したのは、そうしないと生きていられなかったから。

信者は気楽でいいよな。

教祖様を批判するだけでいいんだもんな。

お前さぁ、教祖様の気持ち、勝手に祭り上げられて、それで。

俺の何を知りたいの？

俺に何を期待してるの？

そんなふうにさぁ、

いろいろ言うんだったらさぁ。

まずは自分からやってみろって言うよ。

漢文に書いてあるだろ、それ。

お前らが、もしかしたら大変な目にあってるかもしれないけどさ。

信者っていうのは、迷惑でしかないから。

恋愛ぐらい、好きにさせてくれよ。

俺の行動ぐらい、俺で決めさせてくれ。

俺を目撃して、俺の目撃談で食う飯はうまいか、一般人。

俺はエーステ見て思い出したんだけどさぁ。

ダイジェスト、短縮版で見たけど、あーゆー風に純粋で演技していた時代なんて、忘れたよ。

初めから、気がついたら、物心つく前に、記憶のない頃から、舞台に立っていたから。

信者の方にばっかり目を向けているとさぁ、肝心なものを、見失うよ。

あぁもう、この地獄から逃れるにはどうしたらいいのかな？

ずっと、教祖としてのぬいぐるみを着たまま生きていくのがいいのかな。

それとも。

信者たちが死んでいくのを、黙って見守ればいいのかな。

それとも。

俺が1人死んで、いけにえになって、そうすれば、みんな助かるのかな。

そうじゃないんだろうな。

今この瞬間だって、いつ死んでもおかしくないのに、心臓は止まらないし、肺は正常に動いてるし、ちょっとトイレ行きたくなって帰ってくる。心臓は止まらないし、肺は正常に動いてるし、あ、ちょっとトイレ行きたくなった、行ってくる。