お珍宝説法
@illthy
第1話
お珍宝説法
ある隠れ里に昔ながらの寺が今もあった。
「では、始めなさい」
この寺を取り締まる僧侶が厳かに言った。修行場は世を捨てたばかりの悟りを開きたい禿頭が二列向かい合って特殊な座禅を組んでいる。
三十分、静謐が漂った。にわかに一人の坊主が肩を震わせた。ウロウロしていた長がそれを目ざとく見つけた。直後、長が長い木の板をその坊主の阿頼耶識目掛けて叩きつけた。
「アウチ!」
「アウチだと? この西洋かぶれめがっ!」
長が再度、木の板を振り上げる。
「アン!」
「やらしい声を出すんじゃないよ!」
「あなたのせいで僕の阿頼耶識があらいやらしきになったんだ。大体、西洋かぶれって分かるあんたも西洋にかぶれてるだろ!」
長は気味悪がって何も言わず二列の坊主共の間を歩いていく。また、坊主が一人、身を震わせた。長はそれを見逃さない。
「アン!」
「貴様もあらいやらしきか!」
坊主は苦痛に悶絶しながらもやがて長を見上げて言い放った。
「フランス語です。お分かりになりませんでしたか? 右のこいつらを叩いてみてください」
「何?」
長が左に勢いよく首を回すと、坊主の右隣二人があからさまに怯える。当然体を震わせたので、長が板を振り上げる。
「ドゥ!」
「ドゥ! とはなんだ。なら貴様は!」
長が板を振り上げる。
「トロワ!」
「トロワ! とはなんだ!」
長が怒りに身を震わせる。さらに隣にいた坊主が吹き出す。長が反射的に板を振り上げる。
「ぐはっ」
「おい貴様、何故笑った? 言ってみろ?」
坊主は苦痛に息も絶え絶えだったがやがて汗を滲ませつつ笑い顔を長に見せた。
「フランス語もお分かりにならないんですね」
長の額に血管が浮き上がった。
「貴様も所詮西洋かぶれが!」
長が板を振り上げようとした、その時、長の阿頼耶識が背後から蹴り上げられた。
「アアン!」
長が尻を突き出し床に悶えていると、足音が聞こえてくる。そして顔を起こして見上げると、背後の列にいた坊主が目の前に立ち塞がっていた。
「あなたが今この場で最も心を乱している者だ。そんな方にこれからご指導頂きたい坊主は一体何処にいますか」
坊主の冷ややかな目に長は沈黙し、目を瞑った。そして再び目を開けた時、長は真顔で坊主に告げたのだった。
「これが今日まずお前たちに忘れてもらいたい阿頼耶陀、の真理だ」
お珍宝説法 @illthy
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