ぬいぐるみが苦手な理由

彼岸キョウカ

 

 彼氏との初めてのクリスマス。私は無難にマフラーと手袋をプレゼントした。彼からかは——


「はぁ……」


 大きい割に軽いし柔らかい。これはきっと、いや、間違いなくぬいぐるみだろう。何故彼は私にぬいぐるみを渡そうと思ったのか、それがたまらなく不思議だった。


 可愛いものは好き。服もフリルの付いたものをよく着るし、メイクもキラキラした方が好きだし、小物はピンクが多いし。


 でも、ぬいぐるみ苦手なんだよね。可愛いとは思う。うん。でも一緒にいたいとは思えない。むしろ同じ空間にあると見られている気がして、そわそわして落ち着かないのだ。


 プレゼントを開けて見ると、ぱっと見白いけどよくよく見るとほんのりピンク色の、お目々がくりんとしたうさぎのぬいぐるみだった。それとなくぬいぐるみに話しかけてみる。


「可愛いうさぎさん、ですね」


 今の彼はとても優しくて、私のことをとても好いてくれている。私と会っている時は幸せそうに笑ってくれて、そこが好きだった。


 でもたまに、彼があまりにも幸せそうに笑うから、申し訳なくなるのだ。私にそんなに魅力があるとは思えないから。これと言って容姿が良いわけでも、性格が良いわけでもない。秀でているとこだってない。なのに、なんでそんなに幸せそうに笑うのか……。


 あぁ、そういうことなのかな。私がぬいぐるみが好きじゃない訳は。他人を愛すには、何かを愛すには、まずは自分から。自分を愛せない私は、ぬいぐるみも愛せないのだ。彼だって、彼からの愛で私を満たしているから彼を愛せるのだ。


 なんでこんなに自分のことを好きじゃないのかはわからない。いつからそう思ったのかも、いつまで自分のことを好きだったのかも。


 ぬいぐるみの大きさが、抱きしめるのにはちょうど良いんじゃないかと思って、抱きしめてみた。柔らかくて、思わず力が入る。


「いつか……あなたのことも愛せる日が来るのかしらね」



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ぬいぐるみが苦手な理由 彼岸キョウカ @higankyouka

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ