第29話 誤算
あの女が交通事故で意識不明の重体、薬物反応が出たので警察が動くかもしれない。白石から聞かされると渡辺は軽く舌打ちをした。女に薬を使うなと念を押しておいにも関わらず、あのバカ二人は守らなかったようだ。交通事故にあったのは偶然か、もしくは自殺か、この際どちらでも良かった。
「申し訳ありません」
言い訳が見つからないので素直に謝罪をする、しかし、不幸中の幸いか。女は意識不明で話す事は出来ないようだ。
「薬物乱用の乱交パーティー、若者の乱れた性交渉、で片付けてくれれば良いが」
事件性を疑われて、事故周辺の防犯カメラを調べられたら、女を捨てる所が撮影されているかも知れない。
「車は盗難車か?」
「ええ」
電話越しに深いため息が聞こえてきた、どう対処するか悩んでいるのだろう。
「この件は俺が預かる、誰にも言うな」
つまりは幹部には報告しないで握り潰すと言うことか、助かる、下手したら消されかねない。
「ありがとうございます」
「駒の二人の処分は任せる」
なるほど、あいつらは消せと言う事らしい。当然と言えば当然か、警察の手が及んだ時に簡単に白状しそうなクズだ。もっともそこから辿り着けるのは自分までだが。
渡辺は幹部連中は勿論、直属上司である白石の連絡先すら知らない、要件は全て飛ばしの携帯からコチラにかかってくる、一方通行だ。
「わかりました」
「また、連絡する」
そう言い残すと、通話が切れた。
渡辺はキッチンの棚から年代物のスコッチを取り出した、ロックグラスに自宅で制作した丸氷を入れると、上からゆっくりと注ぐ。パキパキっと氷が割れる音が心地よい。
人間二人をこの世から消すのは思いのほか重労働だ、金もかかる、領収証は――。
白石が静かに怒る姿を想像しながらスコッチを一気に飲み干した。
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