第7話 ガン師匠の授業
「初めに説明するのが何がいいか......。あ、とりあえずさっき話題に挙げた粒子の話からするか。アズマ、お前流石に魔物倒したときに粒子になって、それを身体が吸収することで反射神経とかの運動に関係する能力や身体能力そのものが上がることは知ってるよな?」
「知ってますね、どれだけ上がるとか詳しいことは知らないっすけど。」
スライム倒したときにそこまで変わった感じはしなかったしな。強い魔物を倒せば大きく上昇するとかはあるんだろうけど。
「そうか、ならそっから話そう。まず倒したときに吸収できる粒子の量なんだがこいつはあんまり気にすんな。複数人で倒すと散らばって吸収されるし、誰が多く吸収したとか考えてるといらん争いを生む。」
ふむふむ、俺はそこら辺気にしないタイプだからこれに関しては大丈夫そうだな。
「んで、次は身体能力上昇の話に入るか。まず、上昇量についてだがこれは全員同じだ。同じだけ粒子を吸収したとするなら全員同じだけ身体能力の上昇が見られる。そして上昇の上限だがこれも全員同じになっている。だから身体能力の上昇において冒険者たちに個人差は生まれん。」
「それ以外なら何か個人差が生まれると?」
「そうだ。いや、そう言ったら語弊があるな。元々あった小さな個人差が格段に大きくなると言うべきか。もし、身体能力に自信があるが身体の使い方はあまり上手くない冒険者と、身体能力に自信はないが身体の使い方が上手い冒険者がパーティーを組んでいたとする。アズマ、身体能力が上限まで上昇したとき強いのはどっちだと思う?」
そんなの簡単だ。前者は身体能力が上限に近づけば近づくほど最初に持っていた身体能力のアドバンテージを失う。だが後者はどうだ。ない身体能力を技量で補っていた者の身体能力に大きな補正が入ると考えたら?そんなのどっちが強くなるか明白じゃねえか。
「後者に決まってる......。」
「正解だ。パーティーを組んだときは同じくらいの強さだったし同じように成長した。でも二人の強さには大きな差が生じちまうんだ。もちろん、魔法でこの差を埋めることは出来んことはないが、それも簡単なことじゃねえ。こういうとこからパーティー内の軋轢が生まれたりするんだよ。お前が俺みたいに強くなれなかったのはお前の努力が足りなかったからだ、みたいにな?」
最後の例えを聞いてさすがに俺は顔をしかめる。
そっか、魔物と戦うだけじゃなくて人間関係もしっかりしないとダメだよな。とりあえずガンさんに今の事例を聞けたことをありがたく思おう。
「ハッハッハ!!何て顔してんだよアズマ!悪かったって、さっきのはだいぶ悪いパターンの話だ。普通はそこまではならねえよ。」
俺の顔を見たガンさんが背中をバンバン叩きながら大笑いする。なんだよ、と不満げな顔で抗議してみるも全く取り合ってもらえない。
「さっきの例えのことで前者を悪いと思わせないために言わせてもらうが、そのときに技術が無くても身体能力を活かせる戦い方を模索する奴、愚直なまでに戦いを重ね技術ですら前者を上回る奴、冴え渡る勘を頼りに戦場で大暴れする奴、最早戦闘力すらないのに切れる頭で戦果を挙げる奴、色んな奴がいる。色んな戦い方があるんだ。アズマも自分の得意なことを活かしながら上手くやるんだぞ。」
「俺の得意なことか......。」
現状パッと思い浮かぶものはねえな。得意なことを見つけることも今後冒険者やっていく上で目標にしとくか。
「そんでさっきの例えの話に戻るけどよ。全員が平等に大きなもんを得れば、今まで気にも止めなかったような問題も自然と大きなもんになっちまうことは覚えとけ。この考え方はずっと必要になるからな。っと客が来たな、ちょっと席外すわ。」
そこまで言うとガンさんは席を立って入って来たお客さんの方に向かって行く。この間に俺はガンさんから教えてもらったことの復習をすることにした。
粒子での身体能力上昇についてはしっかり理解できたから、心意気のとこをおさらいしとこう。結構大切なこと教えてもらったと思うんだよ。
「最初ガンさんは冒険者やっていく上で大切なことは得意なことを活かすことだって言ってた。俺はすぐ思い浮かぶような得意なことはないから、とりあえず得意なことを見つけることが目標だな。それで次は例え話のやつだ。あれは、同じ価値のものだと思っていても意外と人によってその価値に差があるって解釈した。要するに俺が何か......とりあえず剣でいいや。剣をもらったとして、俺と同じ剣をもらった相手に俺ができたのだから同じものをもらったお前もできるって決めつけたらダメだってことだな。そして剣ですら人によって差が出るのにもっと大きな、それこそ粒子での身体能力上昇みたいな「お前理解めちゃくちゃ早くねえか?」うわぁ!びっくりしたぁ!!」
「......なんかすまん。」
「あ......いや......。」
びっくりした......完全に考えることに集中してたわ。
考えることに集中しすぎたからか、俺はガンさんに声をかけられた瞬間驚いて席を立ってしまった。
「悪いな、戻って来るのが遅くなっちまって。」
「いや、邪魔してるのはこっちの方なんで。」
「まあ、そこはあんまり気にせんでいい。聞いた限りじゃさっきの話はもうする必要なさそうだし次は魔力についてでも教えてやろう。」
「魔力っすか?」
「そうだ魔力だ、こいつは人によってだいぶ違うからよく覚えとくんだぞ。」
ガンさんはそう言いながら再度椅子に腰掛ける。
「最初にアズマが今どれだけ魔力があるか知っといた方がいいだろ。全魔力の二割分の鉄を出してみろ。」
「了解っす。」
手のひらに魔力を集中させてその二割を消費し鉄の球を作り出す。すると直径およそ6、7センチほどの鉄の球が生み出される。
「二割でそれなら魔力量は平均的だな。魔法的に一度生成するとそう何度も同じ物を作ることはないだろうから最初はそんくらいありゃ十分だ。」
良かった、魔力量は十分あったか。魔力量が少なすぎて冒険者向いてないとか言われたらどうしようかと思ったわ。
「魔力についてアズマに覚えといて欲しいことは二つだ。一つ目は魔力は使えば使うほど全回復したときの魔力量が増えているということだ。そしてこの増加量だが使った魔力量と比例するという研究結果が出ている。つまり、魔法を使い始めて時間が経てば経つほど魔力量の増え方は大きくなる、ということだな。」
「え?上限とかないんすか?」
それだと無限に魔力増えそうだし、途中から魔力全部使うこと自体めちゃくちゃ難しくなりそうだけど。
「それが二つ目だ。ここは大切だからちゃんと覚えとくんだぞ。魔力には最初に持って生まれる量、増加量、上限全てに個人差がある。」
やっぱり魔力の増加にも上限はあるみたいだ。しかし、その後に続いた言葉に俺は首をかしげる。
「個人差?」
「そう、個人差だ。生まれつき魔力が多く、増加量も人一倍多く、上限すら平均を大きく上回るようなやつもいれば、その逆もいる。とんでもなく増加量が多かった割にはあっさり上限に到達するやつや、増加量は悪かったが死ぬまで上限に到達しなかったやつもいた。まあ、ここに関しては運としか言えんな。」
「今から上限を知る方法とかあったりは?」
「ねえな。だいたい魔力の増え方がかなり大きくなってきた辺りでパッタリと止まるから、そこで初めて上限って気づくんだ。」
「でも魔力を全消費って後半から結構難しくないっすか?魔力量多くなると全部使ってから回復までにだいぶ時間かかるでしょ。ある程度回復したら使えばいいとは思うんすけど。」
俺が気になったその部分をガンさんに聞くと、ガンさんは眼を大きく見開いてとても驚いた表情をする。
「は?魔力は使ってから一時間後に自然回復が始まって二十三時間後に全回復、合計して最後に魔法を使って二十四時間後には魔力すっからかんの状態でも全回復出来る割合回復だろうが。」
「え?」
なにそれ知らない。
困惑する俺に対してにやにやし始めるガンさん。
「アズマお前、考えるのは得意だが常識的なことすらあまり知らんな?」
「田舎出身だから仕方ないじゃないっすか!」
わしゃわしゃ頭を撫でられながもガンさんの表情を窺うと、にやにやした表情は一辺し、困ったような表情をしていた。
「しかし、どうしたもんか。これを知らんとなると何を知ってて何を知らんのか見当も付かん。とりあえず先にダンジョン潜ってこい、その間にでも考えとくわ。」
「了解っす、なら今からでも行って来ます。」
「おう、情報は持ってんだろ?」
「はい、ギルドで聞いてます。」
冒険者登録した後にマリさんから三層までの情報はもらっている。その情報を元に対策も宿で立てた。二層からは危険が付きまとうという。やってやろうじゃねえか。
「二層、三層は何て呼ばれてるか知ってるよな?」
「ソロ最初の壁っすよね?」
「分かってるならいい。行ってこい。油断はすんなよ!」
「おっす、行って来ます!」
ガンさんからの激励を受け店を飛び出してダンジョンへ向かう。
このとき俺はダンジョンのことや、ガンさんから教わったことしか頭になくて全く周りが見えてなかった。だからだろう、途中で店に入って来た人物がずっと俺に視線を送っていたことに気づくことはなかった。
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