第4話 旅立ちの刻
くっそ、ちょっとキラに教えてあげただけなのにあんなに怒らなくてもいいだろ。キラが「お姉ちゃんは何か秘密があると思う!」って何の根拠もなしに言ってたからわざわざ俺がその壮大な計画について語ってやったってのに。善意だぞ?善意。100パーセント善意だ。
そんな悪態をつきながら家に帰るとちょうど母親のアミが玄関から出てくるところだった。
「お帰り、遅かったね。もしかしていい祝福でも貰えたの?」
「ぼちぼち。使いやすいかっていわれると難しいけどアイテムは武器だったし魔法も戦いに使えそうなのを貰った。」
武器と魔法を貰ったことを伝えると母さんは嬉しそうに近づいてくる。
「ねえ、どんなの貰ったの?お母さんにちょっと見せてみて。」
「この籠手とあとは......これ。金属を生み出す魔法を貰ったわ。」
そう言って母さんに籠手と生み出した10センチほどの鉄の棒を渡す。母さんは俺から受け取った籠手と鉄の棒を特に籠手を念入りに見ていた。
「お母さんはこういうの詳しくないからよく分からないのだけどこの籠手だけで戦うの?相手は剣だったりするんでしょ?危なくない?」
やはり母さんも籠手は騎士団に入る上で不利だと思うらしい。止めはしないが心配だという思いがその不安気な表情からありありと感じ取れた。
「大丈夫、騎士団には入らんよ。俺も母さんと同じでちゃんとした剣やら槍やら持ってる相手に勝てるとは思ってない。だから冒険者になるつもり。」
「あら、冒険者になるのね。仲間はどうするの?テニト君とマズ君と一緒?」
「いや、あいつらは槍もらってるから騎士団を目指すって。だから仲間は現地で見つけるよ。」
まだどこに向かうかすら決めてないけどな。さすがに無計画で出発はまずいから今日の夜に簡単に予定を立てるつもりではあるが。
「そうなの。なら初めは1人旅から始めるのね。どうせ目的地も決めてないんでしょうし、明日は早いんだから今からでも計画立ててさっさと寝なさいよ。」
「そうさせてもらうわ。あと父さんは?まだ畑にいるの?」
「お父さんはまだ畑よ。どうせ帰ってくるのは遅いから待っても無駄だと思うけど。」
「なら先上がっとく。ご飯のとき呼んで。」
母さんとの会話も終わり二階の自分の部屋に入る。そして俺は自分の住んでいる国ミノラの地図を開いた。さて、これからの予定を決めていこうか。
とりあえず地図でカララ村の場所を探す。カララ村はミノラの南東辺りだから、カララ......カララ......あった。
それでー?どこを目指すのが1番いいんだ?冒険者になるには冒険者ギルドに行かなきゃだめだから......サラさんが行ったって言ってたアカシにするか?アカシなら冒険者ギルドもあるしダンジョンもある。場所は......ここから南西か。そう遠くないから全然アリだな。問題は王都に行く3人とは途中で別れることだが、まあそれはしょうがないだろう。
他に良いルートや街がないか地図に目を通してみるも良さげな場所は見つからない。本当なら3人と一緒にミノラの中央にある王都へ行きたいのだが冒険者たちの旅の終着点とも呼ばれる王都にいきなり行くのはまずい。せめて少しは冒険者や魔法のこととか知っておきたい。となるとやっぱりさっきのルートが無難か。
「カララを出て西へ、街道を歩くならこの別れ道を南西の方向だな。テニトたちと別れるのもここだ。そこからアカシまでは街道が繋がってるからそのまま行けばいい。その次にどこに行くとかはアカシで決めればいいだろ。」
地図を指でなぞりながら決めたルートを確認する。今、この地図を見る限り何か大きな問題があるとは考えにくい。しっかりと舗装された街道を通るつもりだし目指す街も王都を除くと現状1番情報のある街だ。しかし、
「こんな簡単に決めていいのか?なんか見落としてる要素とか......」
あっさりと決まりすぎたせいか不安を覚えるのだった。
「~~~!!」
「あ、おはよう。」「やっと降りてきたか。」
次の日の朝、伸びをしながら1階に降りると母さんと父さんのダルが寛いでいた。
「あれ、父さん今日は畑はいいのか?」
「今日はお前が出発する日だろ?そんなら見送らんといかんだろ。」
俺もお茶を貰ってそう言いながらお茶を啜る父さんの隣に座る。畑仕事をしてるだけあって父さんの腕は太く体格も良い。それでいて身長も高いため冒険者としてダンジョンに潜ってもやっていけそうに見える。しかしそんな父さんでも下級の魔物1体相手にするので手一杯になるらしい。
「聞いた?俺が冒険者になるって。」
「おう、母さんからな。」
父さんはそうあっけらかんと答える。それが俺としては少し意外だった。絶対渋い顔をされると思ってたし。
「正直止められると思ってたわ。父さんでもダメだったのにお前がやっていけるわけないだろ!って。」
「んなことはねえ。あの武器と魔法で騎士団目指すってんなら止めたけどよ。変な意地張らずにすぐ冒険者を目指す方向に変えれたのは偉いことなんだぞ?」
「そりゃ変えるって。だって籠手と金属魔法だぞ?」
「意外と俺はやれるだのなんだの言って引かない奴らがいるんだよ。後なアズマ、武器や魔法で相手の戦力を測るのは止めとけ。どんな武器だろうと魔法だろうと発想力や使い方なんかでいくらでも化けるからな?俺が冒険者だったときはなんかぐにゃぐにゃした剣に物を切る魔法を持ったよく分からんけど強かった女剣士がいた。」
「最後何も分かってないじゃんそれ。」
ぐにゃぐにゃした剣に物を切る魔法ってなんだそれ?剣として機能すんの?それに物を切る魔法?じゃあもう剣いらなくね?そんな人が強いの?
「最後のはよく分からんかったけど俺も自分なりに何か良い使い方がないか頑張って探すようにはしてみるわ。」
「ああ、そうしろそうしろ。父さんはEランクの魔物を1人で倒すのが限界だったからな、冒険者で食っていくならそれくらい難なく倒せるようにならんといけんぞ。」
「わかったわかったって。父さん話長えよ。」
頭をわしゃわしゃと豪快に撫でてくる父さんから逃げ、俺は母さんの元へ向かう。
「んじゃ母さん、俺はそろそろ出るわ。」
「あら?もうそんな時間?」
「結構時間食ったからな。」
あのまま話聞いてたら自分の冒険譚とか聞かされそうだったし。
「そう、テニトくんたちを待たすわけにはいかないものね。忘れ物はないの?」
「ない、今朝も確認した。」
「あなたなら大丈夫だと思うけど命を投げ出すようなことはしちゃだめよ?」
「分かってるよ。素よりそんな馬鹿な真似するつもりはないから。安心して。」
「せっかく村を出るんだからいいお嫁さんを見つけるのよ?」
「それは......まあ、いい人がいたらな。」
全然探す気すらないけど。
余計なことを言う母さんだったが最後は俺に柔らかい笑顔を向けてこう言った。
「冒険者が嫌になるようなことがあったら遠慮せずに帰ってくるのよ。お父さんなんて未だに畑継がせる気満々なんだから。」
そう言って母さんに背中を押して貰えると不思議と力が湧いてくる気がする。やっぱ母は偉大だな。あと父さん、俺が冒険者になって成功すると1ミリも思ってねえな?見とけよ?絶対大物になってやるからな?
「じゃあ行ってらっしゃい。」
「うん、行ってきます。父さんも!行ってくるぞ!」
「おう、行ってこい!!」
家を出て村の出口に向かうと既に3人は集まっていた。
「遅えぞーアズマー!」
「悪い悪い、遅くなっちまった。」
謝りながら3人に駆け寄るとテニトとティオラは荷物を置いて木の柵に体重をかけていてマズに至っては光の玉を明るくしたり暗くしたりして暇を潰していた。あれ?これ俺結構遅れちまったやつか?
「すまん、どれくらい待った?」
「そんなには待ってないよ!10分くらい?」
「それくらいだな。俺とティオラが最初でマズがちょっと前に来たから長く待ってるやつはいねえ。集合時間は大まかにしか決めてなかったし気にすることもねえ。」
「んー?テニトが最初に集合出来たのは私が起こしに行ったからでそのときまで「よし、4人揃ったことだし出発するか!」あ、こら!」
ティオラの暴露を気まずそうな顔で聞いていたテニトだったが、途中で言葉を遮り荷物を持って歩き始めてしまった。つーかテニト、出発の日でもしっかり寝坊しそうになったのか。ティオラがすぐテニトを追いかけて出発したので隣でまだ光の玉で遊んでいるマズに声をかける。
「マズ、あいつらもう出発したから急いで追いかけるぞ。」
「え?ほんと?てかアズマいつからいたの?」
今さらかよ。どんだけ集中してたんだ。マズも荷物を背負うと俺のすぐ後ろを走ってくる。せっかく4人集合したのになんですぐ自由行動になるのかねえ。
「そういやさっきめちゃくちゃ集中して何やってたんだ?光の玉を明るくしたり暗くしたりしてるように見えたが。」
「それであってるよ。光の明度の調整の練習をしてたんだー。僕の光魔法は魔力の消費が少ないから練習とか研究するのにはもってこいだった。」
「もう魔法に夢中になってんのな。ちゃんと槍も使えるようになっとけよ?その光魔法あんまり攻撃力なさそうだし。」
「えへへ、バレた?でも心配しなくていいよ。どっちも上手くやるから。」
マズははにかみながらも何か悪巧みをしているような雰囲気を感じさせる。長い付き合いだからこそ分かることだがマズは何か良い考えがあるときにこんな雰囲気になる。器用なマズのことだ。俺には考えつかないようなことをやってのけてくれるかもしれないな。
その後俺とマズはテニトとティオラに追いついた後王都へと向かう街道を探しながら歩き、見つけた後はその街道を4人で進んで行くのだった。
談笑したりすれ違う人たちと交流しながら真っ直ぐ北西へと進む。日が暮れれば野宿をし日が昇ればまだ歩く。初めて村を出た俺たちからすれば全てが新鮮でたったそれだけのことが楽しかった。この3人と一緒ならどんなことだって楽しみながらこなせそうな気すらする。しかし、そんな時間も長くは続かないのだった。
村を出て3日目、王都へ向かって歩いていた俺たちはとある十字路で足を止めていた。
「ふむふむ……このまま真っ直ぐ行ったら王都セレア、右に行ったらシーザ、左に行ったらアカシってなってるよ。」
その十字路には小さな案内看板があり内容を確認したティオラがそう教えてくれる。ここを左に曲がるとアカシの着くということは今いる場所が出発前に地図で確認した3人と別れる場所だな。ここまで来るのにもう少しかかる予定だったけど意外と早く来たもんだ。
「ここでアズマはお別れなんだっけ?いいの?アカシで。僕たちと一緒に王都に行っても良いんだよ?」
「いや、いいよ。アカシから冒険者始めて仲間集めながらでも地道にやってくわ。」
結局アカシに行く以外のルート見つけれなかったしな。
「じゃあここでアズマとはお別れだ。」
テニトの言葉を皮切りに自然と4人で拳を合わせる。
「俺たちは先に王都に行って待ってるからな!さっさと来て一戦やろうぜ!」
「アズマがいつ来てもすぐ僕たちに合えるように出世して名前売っとかないとなー。」
「私はまだお店開けてるかは怪しいけど料理のお勉強はしてると思うから、そのときは食べに来てね?」
テニト、マズ、ティオラ。3人の幼なじみたちは俺が王都に来ることを信じて先のことまで考えてくれてる。なら俺はそれに応えないわけにはいかないよな。
「どれだけ遅くなるかは分かんねえけどよ!絶対仲間連れて王都に行くから!そんときまで待っとけ!」
シンプルに、威勢良く、今の俺の気持ちを3人に伝える。
「ああ、死ぬんじゃねえぞアズマ」
「そっちこそヘマして死ぬなよ。」
「じゃあそろそろ行こうか。バイバイアズマ。今度は王都でね。」「じゃあなー!!」「またねー!!」
真っ直ぐ進んで行った3人に手を振りながら俺は十字路を左に曲がる。騒がしい2人とマイペースなマズがいなくなったことで途端に寂しさが湧いてくると、人が大勢いて騒がしいであろうアカシに向かう足が自然と速くなる。
ただ、アカシに向かうだけの真っ直ぐの旅路も決して退屈なものではなかった。俺と同じような新人冒険者や商人、馬車、この街道かなり人が通るようで色んな人たちとすれ違った。特に印象に残っているのが俺の後ろから来た冒険者らしき人たちだったな。3人でこの街道より少し離れたところを走っていたんだがその速さが凄まじかった。魔法で何かしらしているのか、魔物を倒しまくって身体が強化されたのかは分からんがいずれは俺もあんな風になりたいところだ。
すれ違う人たちを観察したり、同じ方向に向かう商人のおじいちゃんと話しながら歩いていると遠くの方に建物の屋根などが見えてきた。
「お、見えてきたぞアズマ。あれがアカシじゃ。ミノラ王国の中でも多くの新人冒険者が訪れ、そこを狙って集まる商人たちで1日中盛り上がってることから眠らない街って呼ばれてるんじゃよ。」
自称若い者好きな教えたがりじいちゃんことリゲルさんからアカシについての説明を受ける。リゲルさんとは半日前に会ったばかりで、新人冒険者で同じアカシを目指すと教えた瞬間、新人冒険者はどういうことをすべきで何をすると死亡率が上がってしまうかなどありがたーい話をたくさんしてくれた。リゲルさん曰く俺と年の近い孫がいるらしく、入りたかった騎士団に入れはしたもののそこまでにとんでもない苦労があったそうだ。だから孫のしたような苦労を出来るだけ他の人に味わわせたくないのだそう。まあそのお孫さんもその苦労を経て大きく成長はできたらしいが。
まぁ話相手が欲しかったのもあるのだろう。この半日全く退屈しないくらいにはずっとリゲルさんと会話していた。
「既にアカシのすぐ近くまで来ておるが日暮れも近い、少しペースを上げるぞ。」
「分かりました。」
いくら街が見えてるからといって暗い中を歩くのは整備された街道の上であっても危険が付きまとう。リゲルさんに合わせて俺も歩くペースを上げた。
「そうじゃ、アズマはアカシに着いた後の予定は決めておるんか?」
「いや、特には決めてないです。」
「そうか、独学でやっていくつもりかの?」
「そうなる可能性が高いと思ってますね。僕の魔法は教えを乞う人を見つけられる気がしません。」
「金属魔法のう......その魔法を見てるととあるパーティーにいた男を思い出すわい。」
「とあるパーティーの男ですか?」
「まあ、その話はいいわい。アズマ、アカシに着いたら最初に冒険者ギルドに行きその後は同じ通りにある雑貨屋へ行ってみよ。わしがいつも品を卸しとる店じゃ。そこにおるガンという男ならアズマの力になってくれるかもしれんぞ。」
ギルドの通りにある雑貨屋にいるガンさんか。正直この情報はありがたいな。どんな形で力になってくれるかは分からんが、もし助力を得られるのなら仲間を見つけるまでの安定感が大きく増すかもしれない。
「分かりました、訪ねてみますね!」
リゲルさんと話しながら少し速いペースで歩いているとあっという間にアカシの入り口の前まで来ていた。入り口付近には2つ列が出来ていたのだが右側の列はかなりの勢いで消化されていた。
「ここは関所のようなもので初めてアカシに入る者は左に並ぶんじゃよ。そこで魔道具によって害意のある人間か判断される。まあ、特別悪いことでも企んでおらん限り大丈夫じゃろうて。」
そう言いながらリゲルさんは右側の列へと向かって行く。
「わしはこっちから入らねばならんからここでお別れじゃの。年寄りの話に長い時間付き合ってくれてありがとのアズマよ。武運を祈るぞ。」
「いえいえ、こちらこそ楽しい時間をありがとうございました。リゲルさんこそお元気で。」
......良い人だったな。これからはこういう出会いがどれほどあるんだろうか。冒険者として失敗して村へ帰ることになったとしても時間を見つけては旅に出たりもするのかな。少なくともリゲルさんとの出会いは自分が村を出て得られた大きなものになるのだろう。冒険の面白さ、その一端を今知った気がする。......生き延びよう。死んでしまえばこの面白い冒険はそこで終わる。これから俺は数々の戦場を巡ることになるだろう。それを戦い抜いて、もっと色んな出会いを経験して長く冒険を続けよう。
軽い気持ちで村を出てきたけどこんなに早くやりたいことを見つけることができた。これからは――
「そうじゃアズマ、大事なことを伝え忘れておったわ。冒険者ギルドは入り口を入って真っ直ぐの通りにある白い大きな建物じゃ。見ればすぐに分かるじゃろうて。」
「え!?あ、ありがとうございます!」
列に並びながら考え事をしていた俺は急に話しかけられて少し驚いて大きな声が出てしまった。
それに驚く様子もなく満足そうにリゲルさんは笑っている。
結局それだけ言うためにせっかく並んでいた列を抜け出してきたリゲルさんはすまんの、とまた列の最後尾へと歩いて行く。
ほんとに教えたがりの優しいおじいちゃんなんだな、と少し笑みがこぼれる。
「……あれ?」
最後尾へと歩いていくリゲルさんを見送っていると、列を抜ける前にリゲルさんの後ろに並んでいた体格のいい男性も後ろへと列の後方へと歩いていく。その男性は並び直したリゲルさんの真後ろに並び直しリゲルさんと会話を始める。リゲルさんの楽しそうな表情と体格のいい男性についていた動物のような耳がやけに印象に残った。
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