テディベアの男たち
大河かつみ
俺はテディベアのぬいぐみが好きだ。愛していると言ってもいい。アパートの俺の部屋はテディベアのぬいぐるみで溢れている。玩具売り場で目に着いたものをつい買ってしまうのだ。ただ、その際はちょっと具合が悪いのも事実だ。なにせ俺は40を過ぎたいいオッサンだからだ。だからつい店員に
「娘にプレゼントなので、それように包装をしてくれ。」と嘘をついてしまう。娘はとうの昔に母親に連れられて家を出て行ってしまっている。俺がテディベアにのめりこんだのも思えば娘のいなくなった寂しさ故だ。娘がよく抱いていたのだ。
俺のテディベア愛好癖は職場では勿論内緒だ。なにせ、警察の中でも反社会組織に対峙する屈強な野郎どもの寄せ集められた部署だからだ。血なまぐさい場数を踏んでいる事も案外、ぬいぐるみに癒されたいという願望に繋がっているかもしれない。
ある日、反社の組織のチンピラがしょっ引かれて暑に連行されてきた。ちょっとした喧嘩だった。
「アイツ、男のくせにクマのぬいぐるみなんか持ってたぜ。」
同僚が皆に話して笑っているのを聞いて、俺は興味を持ち取り調べをかってでた。
そのチンピラはまだ二十歳そこそこの若者でオドオドしていた。一通り取り調べをした後、俺は話題を変えた。
「お前、クマのぬいぐるみを持っていたって?」
若者は何も話さない。
「これだろう?返すよ。了解は得ている。」
先ほど、この若者の所持品の中から持ってきたのだ。若者はハッとした。
「そのテデイベア、可愛いな。」
若者の顔が明るくなった気がした。
「これがないと落ち着かないんだろう?肌身離さず持っていないと。」
若者は黙って頷いた。俺はスマホの待ち受け画面を見せた。そこには俺のコレクションのテディベアが映し出されている。
「これ、全部アンタのか。すげぇ。」初めて喋った。
それから俺たちはテディベアの魅力について一時間は喋ったろうか。すっかり意気投合してLINEまで交換した。最後に俺は懐から小さなテディベアを出し、彼に手渡した。
「これをやるよ。俺が自分で作ったんだ。まだちょっとヘタだけど、もっといいのが出来たらまたやるよ。」
「自分でも作っちゃうんだ。スゲー!本当に貰っていいんすか?」
「ああ。大事にしろよ。それともうここには来るな。全うな職に付けよ。」
そう言って俺は取調室を出た。後ろでお辞儀をしているのを感じた。
その後、彼は案外早く釈放された。しかし一か月後、再び彼と出会う事となった。但し彼は死体となって。反社の組織同士の抗争で犠牲となったのだ。彼の手にはテデイベアのむいぐるみが握られていた。俺の手作りの物だった。
俺は毎年、彼の命日には墓前に手作りのテディベアのぬいぐるみを供えている。年々、その出来が上達していると彼も思っているだろう。
テディベアの男たち 大河かつみ @ohk0165
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