ぬいぐるみの思い出

ゴロゴロ卿

ぬいぐるみの思い出

 人気のテーマパークといえど、閉園が近くなると人気のアトラクションも列が短くなり、ここぞとばかりに同じアトラクションを二度三度と乗り倒したことがあるのではないでしょうか。

 そして閉園間際といえばもうひとつ。退場するゲストを一網打尽にするため、退場口の近くだけでなくその外にも複数のお店が大きな口を開けて待ち構えています。どちらも人でいっぱいで、レジには長蛇の列、一人であればさっさと回れ右したいところですが、一人でテーマパークを訪れる勇気はありません。当然のように人の中へ突入することになります。


 彼女が夢中で品定めをしているのはぬいぐるみ。こっちの鼠の男の子がいいかな、あっちの女の子、いやいや家鴨アヒルの子も捨てがたい。と、そんな感じで選んでいるのならわかります。彼女はとあるキャラクターの、それも同じポーズで同じ色合いの衣装を纏ったぬいぐるみをとっかえひっかえにらめっこしていました。

 彼女曰く、ひとりひとり顔が違うのだといいます。ひとつひとつじゃないのかと突っ込むより先にそんな発想はなかったと驚いたものです。手作りの一品ものならばいざ知らず、大量生産の工業製品にそれほどの差があるものなのか。結果、最終的に彼女が選んだのはその独特の感性を全開にした、明らかに造形をミスったと評していい目の位置が離れすぎた子でした。それがいちばん可愛いのだそうです。もしかすると私もその感性で選ばれたのでしょうか。そう尋ねたら大笑いで胡麻化されたものです。


 ぬいぐるみ、漢字で書くと「縫い包み」ですが、英語では“stuffed toy”、“plush toys”、“stuffed animals”など詰め物になるようです。包むくるむと詰める、洋の西では発想が違うんだなと感じますが作り方も違うのでしょうか。


 そしてぬいぐるみといえばこんなこともありました。

 職場のイベント、定かではないのですが確か忘年会のちょっとしたゲームの景品としてぬいぐるみを当てたことがあります。それがゲゲゲの鬼太郎の目玉おやじのぬいぐるみでした。ご存知ですよね、目玉おやじ。蛇足だとは思いますが一言でいうと、首の上、頭が乗っている代わりに眼球が一個乗っている妖怪です。眼球と表すとおどろおどろしくなると感じるのは私だけでしょうか。

 昔はぬいぐるみといえばもふもふ系の動物をモチーフにした可愛いものばかりだったと思うのですが、最近は、といっても二十年以上前ですが、多様なモチーフがあるんですね。動物園で異様に長いヘビのぬいぐるみをはじめて見たときは、こんなのありかと思ったものです。


 さて件の目玉おやじですが、彼は単体ではなくちょっとした小物がついていました。臙脂色のプラスチックの汁椀と湯船の水面を模した透明なプラスチック板で、円形のプラスチック板の一部がちょうど目玉おやじの胴体分だけ欠けていて、プラスチック板でお椀の中に目玉おやじを固定するようになっています。いわゆるお椀風呂という形です。目玉おやじも手ぬぐいを、頭、というか目玉の上に載せていました。

 そのぬいぐるみ、結局どうしたかといいますと、幸い彼女に引き取られました。そこそこ気に入っていたようです。


 その後しばらくしたある日のこと。彼女は針仕事をしていました。その傍らには臙脂の茶碗。なんだか場違いな小物と思いましたら、それはあのぬいぐるみでした。そして目玉おやじは、。一面に針を突き立てられた目玉はちょっとしたホラーでした。

 後にも先にも針山として使われたぬいぐるみは目玉おやじだけでした。



 彼女と連れ添ってすでに数十年、昔を懐かしみつつ、たまにはテーマパークを訪れるのもいいかもしれないなと思いました。

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