38 アイツが魔王だ
アルトは私が居なくなって、すぐ気が付いたようだ。
「メリーが拐われた。僕は飛ぶ」
その場にいたノアとオクターヴに知らせて、すぐに私の後を追いかけて飛んだ。
「おい。居なくなったぞ、追いかけるか」
「分かった、フェニで行こう」
ノアはオクターヴを掴まえて飛んだ。
青い空が眩しい、いきなり上空である。風がゴウッと吹いて飛ばされそうになる。
「うお?」
オクターヴの手を引っ張って、ノアはフェニの背中に張り付く。慌ててオクターヴも白い背中にしがみ付く。
『ピルルー!』
フェニが二人の周りに即座に結界を張ってくれて、落ちる手前で留まった。
「いきなりフェニの上か、びっくりするだろうが、お前はー」
「いや、武器が飛んで来るかもしれないしー」
「何だと……」
フェニはひとっ飛びで、王国軍の兵士がいる場所に飛んだ。
「メリー!」
ノアが叫んだ。
兵士が囲んでいる真ん中に二人はいる。兵士たちが剣や槍を構えて、今にも二人に攻撃しそうな様子であった。
「ノア!」
アルトに庇われた私が上空を見上げると、そこに白い鳥が羽ばたいていた。鳥の肩口からノアとオクターヴの顔が覗く。二人はフェニと一緒に真ん中に降りる。
前にフェニへの攻撃が決まらなかったので兵士達はザザザッと後ろに下がった。
「メリー、その頬どうしたの?」
私の頬を一目見て顔を顰めるノアにアルトが冷たい声で言う。
「あいつに殴られたんだ。ノア、メリーを頼む」
「え? ああ、うん」
一瞬戸惑ったノアはすぐに了解した。
「え? どうして」
アルトにノアの方に押しやられて驚く。手を伸ばしたが、
「メリーは帰ろう」
私を掴んですぐに白い鳥の上に飛ぶノア。
「アルト!」
「おい、俺は?」
「ノアはすぐに戻って来るよ」
アルトとオクターヴが兵士の真ん中に残された。
「オクターヴじゃないか! きさま、こんな所で何をしている」
「いや、その」
いきなりクロード王子が目の前にいて戸惑うオクターヴ。
「くそっ、メリザンドをどこへやった!」
怒り狂ったクロード王子が喚く。
「おい、こいつらをサッサと殺せ! 血祭りにあげてやれ」
陣屋に居る兵士たちが剣を突き付ける。魔導士たちが魔法の詠唱を始める。
「オクターヴ、側にいて下さい。離れないで」
「へっ、なに?」
戸惑いながらも、アルトの側に居るオクターヴ。
「僕は、許さない」
アルトとオクターヴの周りに結界が出来る。冷たい声が呪文を紡ぐ。
兵士たちが槍や剣で攻撃しようとするが結界に弾かれる。魔導士たちの放つ火球が、ふたりに襲い掛かるが消されてしまう。
「風よ『一陣の風刃』行け!」
アルトの手から無数の風の刃が出て、ヒュンヒュンと唸るように兵士達に襲い掛かる。稲を刈るようにそこに居た者たちの首を刈り取っていった。
「うげっ」
オクターヴが少し顔色を悪くする。
「メリーのお陰で調節が上手くなったな」
ノアが飛んで戻って来て、呆れたように言う。
「うは、派手にやったね」
周りは血の海だ。
「お前、何という事を──」
「被害をなるべく抑えただけだ」
「なるほど。これをメリーに見せたらまた体調が悪くなるね」
ノアが首を傾げる。冷めた顔でオクターヴをチラリと見て言うアルト。
「オクターヴ、連絡しといてくれ。魔獣が出たとでも、天罰を受けたとでも」
「分かったよ」
アルトは飛んで猟師小屋に戻った。
オクターヴはこの事を一族に知らせるだろう。
だが、血の匂いに魔獣が誘き寄せられたら、この辺りには誰もしばらく近付けない。王国がこの顛末を詳しく知る事は無いだろう。
◇◇
「アルト!」
猟師小屋にアルトが戻って来たので、私は走って出迎えた。
「怪我はない?」
「大丈夫だよ」
にこりと笑って言うアルト。
「ノアとオクターヴは?」
「すぐ帰って来るよ。大丈夫だからね」
「そうなの?」
アルトは私を引き寄せて頬に手を添える。
「頬を見せて」
「アデリナ様が『ヒール』をしてくれたの」
「最近少し上達しましたの」
「そうなんだ、良かった。うん綺麗だよ」
アルトはアデリナに頷いて私の頬をそっと撫でる。
私の背を追い越してから、アルトのそばかすもだいぶ減った。
何だか顔が綺麗になって、男っぽくなって、こんな風な体勢になると、ちょっと頬が染まってしまう。
でも、ちゃんと言うのだ。
「アルト。私ちゃんと受け止めるからね。弱虫だけど、大丈夫だからね。だから一人でやっちゃダメよ。ちゃんと一緒に行こう? 置いて行かないで?」
「分かったよ、メリー。一緒に行こう」
アルトはにっこり笑って頷いたのだ。その笑顔にホッとして、やっぱり頬が染まってしまうのだけど。
その後、暫くアルトを見るみんなの目が違う。
「どうかしたの?」
何だか恐ろしいモノでも見るみたいな。
「さあ。反乱軍は一網打尽にしたそうだ。第一王子が国王になるようだ」
アルトはどこ吹く風といった涼しい顔をしているが。
私は第一王子を思い浮かべる。目立たない人だった。
第一王子は側妃の子供だった。側妃は伯爵家の出であった為、第一王子の後ろ盾はあまり強くない。ごり押しをすること無く、機会をずっと窺っていた。苦労人である。腹黒かもしれない。この後も国を纏めるのに苦労をしそうであった。
「そうなんだ? 大変ね」
貴族を纏めるのが大変であれば、こちらにちょっかいを出す暇も無いか。
「僕にとってメリー以外に大事なものはない」
「あいつが魔王だぜ」
とオクターヴが言ったとか言わなかったとか。
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