閑話 アデリナとの出会い(スヴェン視点)
「スヴェン、お前に客だ」
冒険者パーティ仲間のバルドゥルに呼ばれて、宿の部屋から一階の食堂に行く。
食堂に居たのは見覚えのある人物だった。俺の故郷イスニ教国のフレンツェルの領主フレンツェル伯爵その人だった。
俺の親父は地方教会の神官だったが何かの理由で罷免され、毎日酒を浴びていたがある日家の裏で首を括って死んだ。
俺は領主のフレンツェル伯爵の計らいで、しばらく親父の働いていた教会で下働きと雑用をして、神官になる道を与えられた。
しかし、教会に居る雇われ護衛が剣の稽古を付けてくれて、お前は筋がいいと言ってくれたのだ。
護衛のいい加減な言葉でも、まだ十五の俺には十分だった。俺はイスニ教国を出て自由都市に行き冒険者になる事にした。
冒険者は自由で働きの分だけ報酬がある。ギリギリの魔物との命のやり取りもスリルがあった。仲間にも恵まれた。
だがある日、田舎の領主フレンツェル伯が現れて俺に頼んだ。
「娘、アデリナの護衛騎士になってくれないか」
彼女は知っている。領主が目に入れても痛くないほど溺愛していた掌中の珠を神殿に差し出せと言われて、承諾するしかない領主は腕の立つ男を探した。
「君の腕は調べた」
「イスニ教国にも腕の立つ騎士は多いと思うが──」
「あの国の者では駄目なのだ。頼む」
恩人に頼み込まれて断れなかった。憔悴した様子も気にかかる。父の死の所為で、俺は故国に帰りたくはなかったが。
伯爵令嬢アデリナ・ド・フレンツェルは、金髪に水色の瞳の天使のような少女だった。
彼女を一目見た時、俺は頷くしかなかった。俺は彼女を守らなければいけない。
これがどこに続く道か分からない。しかしもう後戻りはできない。
そして、ある日、アデリナが震えて俺の許に駆け込んだ。
「今すぐ! ここから逃げたいのです」
猶予はなかった。俺達は着の身着のまま、手荷物だけで逃げ出した。
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