16 野営地で戦闘
食事が終わって片付けを済ますと、水場で顔を洗ってテントに入って眠る。清浄魔法をかけているけれどお風呂に入りたい。ケプテンという街のお宿にはお風呂があるだろうか。
テントは部屋が三つに分かれて、とても快適だ。アルトと一緒に眠ると何となくいい匂いがするんだけど、私は臭くないだろうか。ノアは自分の寝具を持っていて、皆がテントに入るとアデリナが結界を張ってくれる。
ヒールとか結界とか本当にすごいと思う。スヴェンの怪我はもうほとんど良くなっていたので、包帯を回収した。
その日も疲れていたので瞬殺で眠った。
未明、
「メリー起きて!」アルトに揺り動かされて起きた。
「うん、兵士?」
ここで兵士って聞くのが何とも悲しいっていうか。
「いや、魔獣だ。たくさんいる」
私の気持ちを無視してアルトが告げる。
「え、デカいの?」
「いや、狼型の」
既に支度をして外を見て来たらしい。耳をすませば犬の鳴き声みたいなのが聞こえる。狼型の魔獣が集団で襲い掛かって来たのだ。
「えー、食べられなくて、面倒な奴じゃん」
私の認識はその程度だ。
「おいらが殺るー。レベルアップするー!」
ノアが戦うという。私たちも支度をしてスヴェンとアルトがテントの外に出る。
私とアデリナはテントの入り口から様子を見る。
三組の野営をしていた人々はもう起きて、護衛の人が外に出て戦っている。
ノアが魔獣を呼び出した。
大きな白い魔物が現れる。背中や足、尻尾などに斑紋があり、お腹は白くて豹のような動物だ。
「リーン」
ノアが呼びかけると「ニャオ」と鳴いて手に頭をこすりつける。こんなに大きいのに、そんな可愛い声で鳴くのだ。
綺麗なノアと綺麗な白い獣の一対はとても絵になる。こんな状況なのにしばし見惚れてしまった。
「よし、行くよ」
「ニャウ!」
一声叫んでノアとリーンという魔獣は狼たちに向かって行った。
護衛の人たちは最初びっくりして身構えていたけれど、ノアが「大丈夫だよー」と言うと我に返って狼に対峙する。
ノアが呼びだした大きな白い魔獣は強かった。
しなやかな動きでひょんひょんと狼の集団を飛び越し、群れのリーダ的な大きな個体の前に躍り出た。
「グルル……」と低い声で唸るリーダーと少し睨み合ったかと思うと、目にも止まらぬ速さで飛び掛かる。大きな狼の喉元に食いつきブンブン振り回してあっという間に屠った。あとはもう、千切っては投げ、体当たりをしては投げ、前足で引っ掻いて尻尾で叩いて後ろ足で砂をかけて、噛んでは投げ、蹴散らしてゆく。
「強い……」
商隊の護衛の人たちが唖然として見ている。
私たちも出る幕がない。途中ではぐれ狼が飛び込んできたのをあっさりアルトがクロスボウで片付けたし、もう1匹はスヴェンが剣で切り捨てた。
魔獣がいなくなると護衛の人が「ありがとな」と声をかけてくれた。魔獣の死体を一か所に集めて燃やしている。こうすれば他の魔獣が寄って来ないらしい。
魔獣を片付け終わってテントに戻るとノアが私に聞く。
「ねえメリー、おいらレベルアップしたんだ。何かおいらにくれるものない?」
ノアが呼び出したあの大きな白い魔獣は、中型犬ぐらいの大きさになってノアの側で「ニャア」と鳴く。可愛い、ちょっとモフモフしたい。
「え、何だろう」
「ほら、ボックス見て」
「ええ」
言われるままに【救急箱】の中を覗く。
「《タマゴ》がある……」
「卵!」
取り出すと大きい。ダチョウの卵より一回り大きい、ベージュに斑点のある透き通った感のある卵だ。両手で取り出したが重いし落としそう。
「はい、ノア」
必死になって抱えて渡すと、ノアは軽々と受け取って嬉しそうに笑った。
「ありがとう、メリー。これ、おいらとメリーの子供だね」
「え、そうなの?」
私、卵を産んだ覚えはないけど、産んだことになるのかしら?
「おいら、頑張って育てるね。期待して?」
「うん。楽しみにしてる」
こんな大きな卵、一体何が生まれるんだろう。
「この子を育てるからお家に帰るね。メリーにはこっちの子をあげる。何かあったら呼んで。じゃあね」
小さくて丸くて黄色くて、ひよこのようなモノを私の手に残して、ノアは白い豹と一緒にあっという間にいなくなった。
お家って? これは? 呼ぶってどうやって?
数々の疑問を残して、いきなりノアはいなくなった。
転移の魔法ってあるんだな。
私、卵をあげて良かったのだろうか? でも【救急箱】に卵が入っていたし、他にあげる人いないし。食べちゃいけないだろうし。
「何が生まれるんだろう?」
「ドラゴンか、鳥か」
スヴェンが言う。
大きな卵だったな。ドラゴンだったらどうしよう。急に不安になった。
私は、とんでもない事をしたんじゃないだろうか。
「ぴよ」
手の上にいる黄色いひよこが鳴いた。
「え? あら、この子貰ったんだっけ」
「それ、アーリマンじゃないのか?」
やっぱりスヴェンが言う。騎士ってそれなりに危険な目に遭っているんだな。
丸くて目がひとつでコウモリの羽のこの子が? 大きさはひよこくらいだ。
「何かあったら呼んでって言ってたけど……」
ひよこはパタパタと私の手の上で羽ばたく。
「魔物なら、お名前を付けてあげたらいいんじゃないでしょうか」
アデリナが教える。
「そうなの?」
「そうだね」
うんうんと頷くみんな。
「うーん、じゃあ黄色いからミモ?」
「ぴよー!」
ひよこはパタパタと飛んで肩に乗って丸くなった。
「何でミモなのですか?」
「ミモザだと呼びにくそうで」
「そうかしら」
アデリナは首を傾ける。ミモザの方が良かったかしら。可愛いからいいか。
明け方、ケプテンから自衛兵が五人騎馬で駆けて来た。
私たちはちょっと身構えたけど、兵士の鎧が違っていて彼らも親切だった。
「ここらに狼の魔獣の群れが出るって報告があって、探したが場所を特定できなかったんだ。退治してくれて助かったよ」
自衛兵の隊長らしき人が副官と一緒に話を聞く。
「我々はケプテン自衛団外郭警備第五警備隊だ」
何だかカッコいい名前だ。
「昨日、魔獣が出て狼を片付けてくれたそうだが、君たちは何か聞いていないか」
「僕たちはびっくりして見ていました」
「白い大きな魔獣が何故か助けてくれました」
「とっても怖かったです」
私たちは口々に怖かったと訴えた。ノアの事は話さない事にした。だって此処にいないから説明の仕様が無いのだ。
薄暗かったし馬車の護衛の人が人数間違えたとしてもいいよね。私とノアはよく似た格好をしていたし。
私たちが自由都市ケプテンに行くと言うと素性を詮索するように見る。
「俺の友人がこの街に居るので来たんだ」
スヴェンが隊長に申し出る。
「冒険者だ。バルドゥルという」
「ああ、彼なら知っている」
私たちのちぐはぐな格好もそれで納得したようで、
「じゃあケプテンでな」とさっさと引き上げて行った。
私たちはそれからてくてく歩いてケプテンに向かった。
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