やられっぱなか
食連星
第1話
ちょ…
ちょ…
ちょっちょっとっ!
痛いっ!!!
『もう少し丁寧にぁぁつ!もうっ!』
「もう少し黙ってっ大袈裟だなぁ.」
『大袈裟じゃないってばっ.
大体,もう少し綿を足してさぁ.
縫い付けてくれないと…
いつも裁縫用ボンドじゃん.
そんなんじゃぁテンションかかって,動きづらいし.
直ぐ…伸展部から裂けてくるんだよ.
また躯体で肉皮持って帰ってくるの…
情けないし…可愛くないから…』
自分で体拾って,拾い集めて抱えて持って帰ってくる…
悲しさってったら…ないんだよな.
それをご主人へ披露する瞬間の何とも言えない気持ち.
出来たら無い方がいい.
「肉皮って言うな.
布と綿でしょ.お前,ぬいぐるみなんだからさ.
不器用なのに,そこを指摘されても無理なんだよ.
こっちの立場もあるからさー.
やれるだろー?
いつも,いいとこまで上がれるじゃん.
気張っていけよ.」
『頑張らせたいなら,時間も金もかけてよ.
お情けで勝たないように負けないようにして貰ってる身にもなってよ…』
「え?
それ何?
どゆこと?」
知らないとでも言うつもりかーぁ!
『いくちゃんとこっ.』
「いくが?何だって?」
『何で怒んの?』
「怒って…ねーから早く言え.」
『もう怒ってんじゃん…』
「長引かせるなら怒る.」
『はぁ…
いくちゃんとこのキリが危ない時は助けてくれてる.』
「お前っそんな事許してんのかっ!
恥ずかしい.みっともねー.」
本気で言ってる…?
『大体,そこまでならない時に入ってくれるけど…
この間は,公開ファイトだったから…
陰でやられた.』
「いっつも,そこそこで帰ってこれてるのは…」
『キリが助けてくれるから.
何回言わせるの.
いくちゃんに御礼言った事…』
「ねーわ.
いくの奴…」
『ご主人!』
いくちゃんとこのキリは,もっこもこに綿入れてくれてて…
綺麗に縫い付けられてて…
しかも,いくちゃんが大事にメンテナンスしてくれてる.
愛情たっぷり注がれてて…
強さはボディとハートの総合力ではないかと思うんだ.
だけど…
私だって…
乱暴にされてても,御主人の事は大事に想ってるんだ.
そこは強くて誰にも負けないと思ってる.
『もう壊れてしまって…
新しい子に来て貰ったらいいですよね…』
言ってて…
あぁ…そうか,
それを望んでるご主人が,何でまだ壊れないんだろうかって
不思議に感じてたんだ…
と気が付いた.
しおっとしながら…
御主人を眺めて,次の言葉をびくびくしながら待ってる.
やられっぱなか 食連星 @kakumi
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます