第32話
ウィスタリアは謁見の間の2階の席で見届けるように指示をされた。その席は広場が見渡せるような造りになっていて普段は公爵などの位の高い人物しか使用出来ない場所だ。父と兄もウィスタリアの近くに陣取りいつでもウィスタリアを守る体制になった。手には魔法水が入っている皮袋を用意している。
そして、龍のカバンをボム士長が陛下の前に置いた。
「おお、これが噂の龍のカバンか…このカバンは珍しいモノで譲ってくれと何度も使者を送ったのにモンブラン家は頑なに家宝だからだと譲ってはくれなかった。意外と小さいモノだな」
「陛下、今日はカバンではなく中のネックレスが主役ですぞ」
「そうだったのぉ。しかし、ネックレスなんぞ興味ないのだ」
「今日はモンブラン家の家宝のカバンからこちらのミスリルで作られているジュエリーボックスに移し替えます。こちらも魔力を通しませんから動きを止める事が出来るでしょう。透明でもありますから中身を見る事も出来ます。本来なら移し終えてから陛下に見て頂きたかったのですが動くところをお見せしない事には信じられない話だと思われますので…」
「確かにのう…」
陛下はチラリと2階の席にいるウィスタリアを見る。
そして、ミスリルが編み込まれた手袋をしてボム士長がゆっくりとカバンを開けた。そしてネックレスを取り出す。
おおぉと言う周りの声と共に陛下も身を乗り出した。中指にネックレスのチェーンを挟み、赤い魔石部分を陛下に見えるようにした。
「これが動く魔石とな…」
緊張が高まる中、ネックレスをジュエリーボックスに入れようとした途端、ネックレスは意思があるかのように暴れて嫌がった。王や家臣達は驚いた。話には聞いていたが本当に生きているかのようにネックレスは右往左往としているのだ。そして、シリウス・ボムの手から飛び出しウィスタリアの方に向かって飛んだ。
オリバーとベゴニアは想定内の事としてウィスタリアを下がらせ、同じくミスリル製の手袋をしていたベゴニアが捕まえた。暴れるネックレスにオリバーが魔法水をかけた。そして近くにもう一つ用意していたミスリル製のジュエリーボックスに押し込んだ。
周りにいた騎士や兵士もベゴニアに言われミスリル製の手袋をしていた。いつでもこちらに飛んで来ても対応出来るようにしていたのだ。
ジュエリーボックスに封印されたネックレスはバチバチという音が鳴ったかと思うと弾けた。弾けたカケラは血が飛び散ったかのようになり、ジュエリーボックスは真っ赤に染まった。
当たりはシーンとなり、誰一人として動ける者はいなかった。
「ど、どうなったのだ?」
陛下が静かになった2階の席に向かって言った。
我に掛けったオリバーは2階の席から顔を出し、赤い魔石はジュエリーボックスの中身で弾けて砕けた事を告げた。
「おお、大儀であった。呪われたネックレスを封印したのだな。褒美を取らずぞ」
と、陛下や周りの家臣、貴族はすごいモノが見れたと大騒ぎだ。拍手喝采でまるでSHOWを見た後のような大盛り上がりである。
オリバーとベゴニアも安堵した。これでウィスタリアの危険は無くなった。後は家宝の龍のカバンの奪還だ。下手をすればそのまま没収されてしまうかもしれなかった。
オリバーとベゴニアは盛り上がっている中、陛下の近くに行きオリバーがジュエリーボックスを陛下に献上しているところで、ベゴニアが落ちている龍のカバンを回収した。これも事前に話し合いがされていた。息の合った親子である。
オリバーが陛下の気を取っているうちにベゴニアは龍のカバンを持ってウィスタリアの所に戻った。
しかし、ウィスタリアは気を失って倒れていた。
「これはどういう事だ!」
ベゴニアは近くにいた騎士に掴みかかる。
「分かりません。お二人が陛下の元へ行かれてから急にお顔が優れずそしてお倒れに…」
ベゴニアはウィスタリアを別室に運ぶように指示をした。
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