第19話
ウィスタリアは貴族に生まれながら平民並の魔力もなく生活魔法すら使えない。魔法が使えない人間はこの世界では障害者と認定される事もある。しかし、先代のモンブラン婦人が一族に魔法が使えないモノがいる事は恥だと言う事でその事は伏せられていた。
皆が魔力があるのが当然の世界でひとりだけ魔力のない生活は困難の連続だった。まだ貴族だという事もあり、生活自体はなんとかなっていた。しかし徐々にそれは露呈することになる。それは当然だ。学校に行けば嫌でも魔力がある人との差が出てきてしまう。しかもバレないようにしならければならない。
それでも元気に生活しているのに心の病ですって?どうして心が病む事があるのか、贅沢だなとウィスタリアは思う。強者には強者にしか分からない悩みがあるのだろうか。
ビヨンセとウィスタリアはその日に貴婦人宅で夕食を一緒にする事になっていた。行った所で助けてやれる事などないのになぜ行くのだと思うが、母はこれも人助けなのだと言う。悩みが無いわけではないが心の病気になるほどでもない者が助けるのは当たり前の事だ。という事らしい。
話を聞くだけでも人とは心が安心するものですと母は言う。だからって私はいるのかとも思う。
「ヴィヴィアンヌ、お夕食のご招待、ありがとう。お義母様の具合はいかが?」
ビヨンセが招待してくれた事に挨拶をする。ヴィヴィアンヌ・アウロー男爵夫人だ。ビヨンセとはお茶会で知り合い、世間話程度はする仲ではあるらしい。
「モンブラン婦人、来てくれて嬉しいわ。義母は気分がいいのか暖炉の前でゆっくりしているわ」
暖炉の前で老婦人がカップを手にソファーに座っている。
「お義母様、モンブラン婦人が来てくれましたよ」
そう話しかけると老婦人はゆっくりとこちらに向き直った。
「おや、まあ…あの美しかったビヨンセ?!嘘みたいだね!年を取るとどんな美人も台無しだ。後ろの…あんたはよかったね。年とっても同じだろうよ」
「ちょ、ちょっと、お義母様?!せっかく来て頂いたのになんて失礼なことを!」
「本当の事だろう、ほっほっほ」
ヴィヴィアンヌは慌てて老婦人を連れて部屋に戻った。
「…優しかったあの婦人があんな嫌味をいう人になるなんて…」
昔の母を知っているのだろうが、あまりにひどい言葉にビヨンセはショックを受けているようだがウィスタリアは知らない老婆に憐みの目を向けられた。ひどい屈辱だ。
「あれが心の病気というの?」
「何かに絶望してああなっているのだと思うのよ」
「…そうですか…」
絶望したら酷い嫌味を言ってしまいたくなるのだろうかと疑問が出て来るウィスタリアだったが、それより気になったのは老婦人がしていたネックレスだ。年代もののいいネックレスなのだろう。モヤモヤとしている。いい魔石はモヤモヤしている。きっと価値の高いモノに違いない。ウィスタリアには一生あんな宝石は身に着ける事はない。もちろん母もいいネックレスをつけているがモヤモヤ度が違う。
鑑定ギフトなどないウィスタリアはこのモヤモヤ度で判断している。パーティーに来ている婦人は指輪やイヤリングなど沢山身に着けている宝石の中でそのモヤモヤ度の高い宝石を褒めると大抵の人は喜ぶ。
「どう?ヴィヴィアンヌの苦労が分かるでしょう?」
「だから、ムリよ。兄さまに頼んだ方がいいわよ」
「ベゴニアには頼めないわよ。あの子は栄養剤の事でもう王族になる人よ」
決まっているの?
「しかも今回の魔法水の発見で決定的よ。そんな人に個人的な事は頼めないでしょう?」
私にはいいの?
「その王族が管理するようになった泉を私がどうする事も出来ないのはわかるでしょう?」
「ウィスタリアは森にこっそりと今まで通り入って普通に貰ってくればいいわよ、うふふ」
「お母様は娘を犯罪者にしたいの?」
「またぁそんな大げさな事を言って…」
「兎に角、ムリだから」
そんな話をしていると、ヴィヴィアンヌが戻って来た。
「ごめんなさいね、せっかく来てくれたのに。ウィスタリアも久しぶりね。会えてよかったわ」
昔、ウィスタリアもお茶会に参加していた。
「ええ、あの…力になれずごめんなさい」
「え?ああ、魔法水ね…いいのよ。ムリなのを分かってお願いしただけだから、それよりお食事にしましょう」
3人は食事を共にした。
「最近、あんな事に?」
ビヨンセはヴィヴィアンヌに聞いた。
「ええ、少しずつかしら、あんな人ではなかったのに…今では私にもひどい事を毎日言うのよ。本当にもう辛くて耐えられない…」
一通り、苦情や悪口をヴィヴィアンヌに言わせた後、ようやく落ち着いたのか最近の流行りや噂話に花が咲いた。
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