第17話
「そう…だったのね。まぁピアニーなら私が言わなくても大丈夫だったわよ」
「そんな事ないわよ。あの言葉に救われたって言っていたもの。ウィスタリアはさすがだわ」
母はどうしたのだろう?相談事が怖くなった。
「お母様、そろそろ…」
「ほらっバイオレットの時も!城の侍女になって1年くらいの頃だったかしら」
まだバイオレットが王女様の室侍女の一人だった頃だ。つまり大勢の中の一人という事だ。
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「姉さま、王女様の卒論を無くしてしまったそうなの。どうしたらいいの?」
バイオレットはメイドの仕事をしていたウィスタリアの所に相談をしに来ていた。
「え?どうしたらって?」
ウィスタリアはシーツを干しながらいった。
「実は…王女様はその卒論を侍女に渡したって言っているの…」
「バイオレットに?」
「違うのよ!誰に渡したかは覚えてないって。でもその時間の担当は私ともう一人の侍女ロザージュしかいないの」
「えぇ…」
「えぇでしょ!そんな大事なもの受け取ったら覚えているし、忘れないわ!でも受け取った覚えがないの!昔から付いている古株の侍女マーリンもいたけど、もちろん知らないって!どうしよう!」
どうしようって言われてもどうも出来ない。バイオレットは仕事をサクサクこなすがこういう時は試行が停止する。
想像力がないのだろう。今ある問題ばかりにしか目が行っていないのかもしれない。
「えっとじゃあ、3人の侍女が知らないのなら、王女様の勘違いね」
「え?」
「たぶん、ご自身でどこかに仕舞われたのよ。でも覚えてないの」
「…そう、かもだけど…」
「ただ、本当に誰かに渡したと思い込んでもいるのよね。だから、まぁ探すしかないんだけど…」
「ど、どこを探すの?」
「だから…」
人は広い部屋があっても、広い収納スペースがあっても大体同じ所を行き来する。王女様だって部屋に居たって触るものは決まって来るだろうし、開ける扉も同じ場所が多いに違いない。王女様が見そうな本や開けそうな引き出し、普段触っている場所を徹底的に探す。しかも見るだけでなく全部取り出して中も見る。っというローラー作戦しかない。
というと、バイオレットはもう一人のロザージュと共にローラー作戦を開始した。
ロザージュはローラー作戦を理解していなかったのか、引き出しを開けても上から覗き込むだけだったが、バイオレットは一つずつ取り出し隙間も探した。
「あ、これでは?」
バイオレットは布に撒かれている1枚の紙を発見した。
「まぁバイオレット!これよ。どこにあったの?」
「棚の引き出しに…」
「あ…そうだったわ。論文を失くさないようにと布に撒いて仕舞ったんだったわ…」
卒論と言い張るその1枚の紙には半分も字は埋まっていなかったが、王女様が卒論だと言えば卒論なのだ。
王女様は3人の侍女達に謝ってくれて一人ずつ髪飾りをプレゼントしてくれた。しかし、古株のマーリンは預かっていたのに預かっていないと嘘を言っているとバイオレットとロザージュにつらく当たっている所を皆に見られていた。
それから3ヶ月後に人事異動が発表され、バイオレットが王女付きの侍女に昇格した。理由は年も近いし、何よりも卒論を見つけてくれた事が大きいようだ。
その一方で古株のマリーンは弟王子の室侍女に降格になった。
マリーンにしてみれば室侍女がウソを付いているかもしれないから厳しく追及したのだが自分も王女のように決めつけて叱ってしまった。普段からあまり王女との関係は良くなかったのかすぐに降格させられたのは気の毒としか言えない。
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